TRENDIA CLASSIC
ゼーロン
牧野信一
1 / 18
更に私は新しい原始生活に向うために、一切の書籍、家具、負債その他の整理を終ったが、最後に、売却することの能わぬ一個のブロンズ製の胸像の始末に迷った。――諸君は、二年程前の秋の日本美術院展覧会で、同人経川槇雄作の木彫「」「牛」「木兎」等の作品と竝んで「マキノ氏像」なるブロンズの等身胸像を観覧なされたであろう。名品として識者の好評を博した逸作である。
いろいろと私はその始末に就いて思案したが、結局龍巻村の藤屋氏の許に運んで保存を乞うより他は道はなかった。兼々藤屋氏は経川の労作「マキノ氏像」のために記念の宴を張りたい意向を持っていたが、私の転々生活と共にその作品も持回わられていたので、そのままになっていたところであるから私の決心ひとつで折好き機会にもなるのであった。
私は特別に頑丈な大型の登山袋にそれを収めて、太い杖を突き、一振りの山刀をたばさんで出発した。新しく計画した生活上のプロットが既に目睫に迫っている折からだったので、この行程は最も速やかに処置して来なければならなかった。で私は、早朝に新宿を起点とする急行電車に性急な登山姿の身を投じ、終点の四駅程手前の柏駅で降りると息をつく間もなく道を北方に約一里溯った塚田村に駆け登って、予定の如く知合いの水車小屋から馬車挽き馬のゼーロンを借り出さなければならなかった。近道のみを選んでも徒歩では日没までに行き着くことが困難であるばかりでなく、途中の様々な難所は私の信頼するゼーロンの勇気を借りなければ、余りに大胆過ぎる行程だったからである。
牧野信一の他の作品
TRENDIA CLASSIC
今年発表の作品
牧野信一
今年発表の作品
牧野信一 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
〔作者の言分〕
牧野信一
〔作者の言分〕
牧野信一 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
自己紹介
牧野信一
自己紹介
牧野信一 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
十年ひと昔
牧野信一
十年ひと昔
牧野信一 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
昭和十年度に於
いて最も印象に
残つたもの
牧野信一
昭和十年度に於いて最も印象に残つたもの
牧野信一 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
昭和四年に発表
せる創作・評論
に就て
牧野信一
昭和四年に発表せる創作・評論に就て
牧野信一 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
処女作の新春
牧野信一
処女作の新春
牧野信一 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
推奨する新人
牧野信一
推奨する新人
牧野信一 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
一九三二年に計
劃する
牧野信一
一九三二年に計劃する
牧野信一 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
一九三〇年型
牧野信一
一九三〇年型
牧野信一 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
〔同人雑記〕
牧野信一
〔同人雑記〕
牧野信一 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
南風譜・梗概
牧野信一
南風譜・梗概
牧野信一 ・ 約1分