TRENDIA CLASSIC
フロルスと賊と
クスミン Mikhail Alekseevich Kuzmin
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表の人物
Aemilius Florus 主人
Mummus 老いたる奴隷
Lukas 無言の童
Gorgo 田舎娘
Calpurnia 主人の友の妻
老いたる乳母
差配人
医師
獄吏
跣足の老人
従者等
裏の人物
Malchus 賊
Titus 商人
赤毛の女
兵卒等
一
エミリウス・フロルスは同じ赤光のする向側の石垣まで行くと、きつと踵を旋らして、蒼くなつてゐる顔を劇しくこちらへ振り向ける。そしていつもの軽らかな足取と違つた地響のする歩き振をして返つて来る。年の寄つた奴隷と物を言はぬ童とが土の上にすわつてゐて主人の足音のする度に身を竦める。そして主人の劇しく身を翻して引き返す時、その着てゐる青い着物の裾で払はれて驚いて目を挙げる。
往つたり返つたりしたのに草臥れたらしく、主人は老人に暇を取らせた。家政の報告などは聞きたくないと云ふことを知らせるには、只目を瞑つて頭を掉つたのである。主人が座に就くと童は這ひ寄つて、膝に接吻して主人と一目、目を見合せようとした。フロルスは口笛を吹いて大きい毛のもぢや/\した狗を呼んだ。主人と童と狗とが又園に出た。そして二人と狗とが前後に続いて往つたり来たりし始めた。先頭には主人が立つて、黙つて大股に歩く。すぐその跡を無言の童がちよこ/\した足取で行く。殿は狗で、大きい頭をゆさぶりながら附いて行く。主人は二度目の散歩で気が落ち着いたと見えて、部屋に帰つて、書き掛けた手紙を書いた。