TORENDIA
水汲み
徳冨盧花
TORENDIA
水汲み
本文約2,000字 ・ 読了時間 約4分
あらすじ(AIが作成しました)
移転先の井戸水が泥臭く飲料に適さないため、主人は五丁先の品川堀から毎日水を汲むことになる。霜の降る朝、両手に手桶を提げ、やがて天秤棒を担いで、往復を繰り返す。肩に瘤のような腫れを作り、疲労困憊しながらも、日々の水汲みを続ける。やがて本格的な井戸浚えを経て清水が湧き出るようになり、厳しい日常が終わりを迎えるまでの田園生活での身体的な苦闘と心境の変化を描く。
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🎧 水汲み / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ
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玉川に遠いのが第一の失望であつた。井の水が悪いのが差当つての苦痛であつた。
井は勝手口から唯六歩、ぼろ/\に腐つた麦藁屋根が通路と井を覆ふて居る。上窄りになつた桶の井筒、鉄の車は少し欠けてよく綱がはずれ、釣瓶は一方しか無いので、釣瓶縄の一端を屋根の柱に結はへてある。汲み上げた水が恐ろしく泥臭いのも尤、錨を下ろして見たら、渇水の折からでもあらうが、水深が一尺とはなかつた。
移転の翌日、信者仲間の人達が来て井浚へをやつてくれた。鍋蓋、古手拭、茶碗のかけ、色々の物が揚がつて来て、底は清潔になり、水量も多少は増したが、依然たる赤土水の濁り水で、如何に無頓着の彼でもがぶ/\飲む気になれなかつた。近隣の水を当座は貰つて使つたが、何れも似寄つた赤土水である。墓向ふの家の水を貰ひに往つた女中が、井を覗いたら芥だらけ虫だらけでございます、と顔を蹙めて帰つて来た。其向ふ隣の家に往つたら、其処の息子が、此家の水はそれは好い水で、演習行軍に来る兵隊なぞもほめて飲む、と得意になつて吹聴したが、其れは赤子の時から飲み馴れたせいで、大した水でもなかつた。
使ひ水は兎に角、飲料水だけは他に求めねばならぬ。