TRENDIA CLASSIC

イボタの虫

中戸川吉二

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無理に呼び起された不快から、反抗的に、一寸の間目を見開いて睨むやうに兄の顔を見あげたが、直ぐ又ぐたりとして、ヅキンヅキンと痛む顳を枕へあてた。私は、腹が立つてならなかつたのだ。目は閉ぢはしてゐても。枕許に立つてゐて自分を監視してゐるであらう兄の口から、安逸を貪ることを許さないと云ふ風な、烈しい言葉が、今にも迸りさうに思はれてゐたのだ。

兄は併し、急き立てて私の名を呼びつづけようとはしなかつた。もう私が目を醒したのだと知ると、熟睡のあとの無感覚な頭の状態から、ハツキリした意識をとり戻し得るだけの余裕を、十分私に与へてやると云ふ風に暫く黙つてゐた。で、流石に私も寝床に執着してゐる自分が恥ぢらはれて、目を見開いて了はうとするのだつたが、固く閉ぢられてゐた私の瞼は、直ぐには自分自身の自由にもならなかつた。ともすると兄の寛大に甘えて危く眠り落ちさうになつてゐた。

「起きろよ」

突然に又兄の鋭い声がした。劫かされたやうに、私は枕から顔を放して、兄の顔を視守つた。二言三言眠り足らない自分を云ひ訳しようとでもする言葉が、ハツキリした形にならないまま鈍い頭の中で渦を巻いてゐた。

「いま――何時なの」

やがて、かう訊いたのだ。が、併し、兄はそれには答へなかつた。私は一寸てれて机の上の置時計を見た。七時半であつた。

「二時間位しか、眠りやしない……」

私は半分寝床から体を這ひ出しながら、口を尖らせながら、呟くやうに云つた。さう云ふ私を、兄は非難しようとさへしなかつた。

「兎も角起きろ。――起きて、着物を着かへてキチンと帯をしめろ、たいへんなことになつたんだ」

かう、妙に沈んだ声で云ふのだつた。これは少し何時もと様子が違つてゐると思つて、私はかすかな不安を覚えながら、節々の痛む体を無理に起して寝床から放れた。――帽子も被つたまま、オーバコートも着たままの、役所へ行きがけらしい兄の姿をもう一度よく視守つて、何か云はうとしてゐると、

「美代が悪いんだ」と、兄は怒つてでもゐるやうな恐い顔をして、押つ被せるやうな強い口調で云つた。

「姉さんが?――姉さんには昨日僕あつたんだけれども……」