世界怪談名作集
本文約31,100字 ・ 読了時間 約63分
あらすじ(AIが作成しました)
パドゥアの大学へ通う青年ジョヴァンニは、下宿先から見える不思議な庭園に心惹かれる。その庭は著名な医師ラッパチーニが管理し、毒性を持つ珍しい植物が咲き誇っていた。青年は庭で暮らす医師の娘ベアトリーチェと出会い交流を深めるが、彼女自身も父の科学的実験によってその身に毒を宿す運命を背負わされていた。本作は、行き過ぎた科学への探求心と、その犠牲となる人々の悲劇的な愛の行方とを描く。
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一
遠い以前のことである。ジョヴァンニ・グァスコンティという一人の青年が、パドゥアの大学で学問の研究をつづけようとして、イタリーのずっと南部の地方から遙ばると出て来た。
財嚢のはなはだ乏しいジョヴァンニは、ある古い屋敷の上の方の陰気な部屋に下宿を取ることにした。これはあるパドゥアの貴族の邸宅ででもあったらしく、その入り口の上には今はすっかり古ぼけてしまったある一家の紋章が表われているのが見られた。自国イタリーの有名な偉大な詩を知っていた旅の青年は、この屋敷の家族の祖先の一人、おそらくその所有者たる人は、ダンテの筆によって、かのインフェルノの煉獄の永劫呵責の相伴者として描き出されたものであることを、想いおこされるのであった。これらの回想や連想が、はじめて故郷を去った若者にはきわめてありがちの断腸の思いと結び付いて、ジョヴァンニは思わず溜め息をついた。そうして、物さびしい粗末な部屋の中をあちらこちらと見まわした。
「おや、あなた」と、リザベッタ老婦人は、この青年の人柄のひどく立派なのに打たれて、この部屋を住み心地のよいように見せようと努めながら声をかけた。
「お若いかたの胸から溜め息などが出るとは、これはどうしたことでございましょう。あなたはこの古い屋敷を陰気だとでも思っていらっしゃるのですか。では、どうぞその窓から首を出してご覧下さい。ナポリと同じようにきらきらした日の光りが拝まれますよ」
ジョヴァンニは、老婦人の言うがままにただ機械的に窓から首を突き出して見たが、パドゥアの日光が南イタリーの日光のように陽気だとは思われなかった。とはいえ、日光は窓の下の庭を照らして、さまざまの植物に恵みある光りを浴びせていた。その植物はまたひとかたならぬ注意をもって育てられたもののように見えた。
「この庭は、お家のものですか」と、ジョヴァンニは訊いた。