TRENDIA CLASSIC
白い壁
本庄陸男
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一
とうとう癇癪をおこしてしまった母親は、削りかけのコルクをいきなり畳に投げつけて「野郎ぉ……」と喚くのであった。
「いめいめしいこの餓鬼やあ、何たら学校学校だ。この雨が見えねえか! 今日は休め!」
「あたいは学校い行くんだ」
富次は狭い台所ににげこんでそう口答えをした。しばらく彼はそこでごとごといわせていたが、やがて破れ障子の間からするりと出てきて蒼ぐろい顔をにやりとさせた――「なあおっ母あ、お弁当があんのに休まれっかい、あたいは雨なんておっかなくねえや」
「ええっ! この地震っ子――」と母親は憎悪をこめて呶鳴ってみたが、すぐにそれをあきらめて今度は嫌味をならべだした。親が子に向って――と思いながらも彼女は、言わずにいられないのである。
「んじゃあ富次、お前は学校の子になっちゃって二度と帰ってくんな」母親はおろおろしはじめた伜の汚い顔をじっと睨め「なあ富次、お前の小ぎたねえその面を見た日から、こんな苦労がおっかぶさってきたんだから……よお、帰らなくなりゃあ何ぼせいせいするもんだか!」
そう言われると子供は今までの勇気がたちまち挫け、そこにきょとんとつっ立ってしまった。