白い壁
本文約25,500字 ・ 読了時間 約52分
あらすじ(AIが作成しました)
大雨の朝、貧しい長屋でコルク削りの手伝いに追われる柏原富次は、陰気な家庭から逃れるために学校へ向かう。震災後に建てられた鉄筋コンクリートの小学校は、清潔な白い壁で彩られているが、そこでは校長による徹底した管理と清浄の維持が求められていた。ある日、杉本教諭が受け持つ低能組の教室で、子供たちが騒乱を起こす。失禁した富次の窮状に直面した杉本は、子供たちの過酷な現実と向き合いながら、教師としての葛藤と教室内で交わされる子供たちの悲痛な告白を目の当たりにする。
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一
とうとう癇癪をおこしてしまった母親は、削りかけのコルクをいきなり畳に投げつけて「野郎ぉ……」と喚くのであった。
「いめいめしいこの餓鬼やあ、何たら学校学校だ。この雨が見えねえか! 今日は休め!」
「あたいは学校い行くんだ」
富次は狭い台所ににげこんでそう口答えをした。しばらく彼はそこでごとごといわせていたが、やがて破れ障子の間からするりと出てきて蒼ぐろい顔をにやりとさせた――「なあおっ母あ、お弁当があんのに休まれっかい、あたいは雨なんておっかなくねえや」
「ええっ! この地震っ子――」と母親は憎悪をこめて呶鳴ってみたが、すぐにそれをあきらめて今度は嫌味をならべだした。親が子に向って――と思いながらも彼女は、言わずにいられないのである。
「んじゃあ富次、お前は学校の子になっちゃって二度と帰ってくんな」母親はおろおろしはじめた伜の汚い顔をじっと睨め「なあ富次、お前の小ぎたねえその面を見た日から、こんな苦労がおっかぶさってきたんだから……よお、帰らなくなりゃあ何ぼせいせいするもんだか!」
そう言われると子供は今までの勇気がたちまち挫け、そこにきょとんとつっ立ってしまった。