本文へ移動
TORENDIA

瓢作り

本文約1,700字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

毎朝畠へ出て様々な瓢箪の成長を観察する日々を綴る。ポプラの枝や垣根に這い回り、雨露を浴びて青々と太る多種多様な瓢箪の愛らしさを描く。隣家の蔓が侵入して瓢箪を縛り上げる騒動や、近所の子供たちと実の数を数える楽しみを交えながら、夏の間、手入れに余念のない瓢作りの様子を詳述する。かつて失敗した経験を省みつつ、今年こそは見事な実を得たいと願う心情と、瓢箪を詠んだ自身の俳句を収める。

杉田久女

速度
🎧 瓢作り / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 2

今年私は瓢作りを楽しみに、毎朝起きるとすぐ畠へ出てゆく。

まづ門傍のポプラの枝へはひ登つて、ぶらりと下がつてゐる大瓢が一つ。これはまるでくくりのない、丁度貧乏徳利みたいにそこ肥りのした奴。私がこないだ虚子先生にお目にかかりに別府迄行つてきて、汗の単帯をときすてるとすぐ見に行つたら、ほんの二日の間に見違へるほど快よくまつ青く太つてゐた。あんまりのつぺりとくくりがないので一体瓢箪だらうか白瓜か、もしくは信州辺でゆふごと言つてゐるかんぺうを作る瓜なのか、などと家中で評定とり/″\だつたが、やはりずぼらながら瓢箪であるらしい。実に大まかな気楽げなかつかうをして、夕立雨の時などはうぶ毛の生えたまつ青な肌をポト/\と雫がつたふ。夕立晴の雲がうごく頃には、柄の長い純白な瓢の花が、涼しげに咲き出す。この外にもポプラの樹に這ひついてゐる瓢が三本。之れはアダ花が咲くのみで、まだドンな形のとも見当がつかない。

一体うちでは棚をつらう/\と話しあつてゐる中に、樹に垣に地面にどの蔓もが青々と這ひまはり、そこら中に花が咲き出したのであつた。

さて私は、茄子や葉鶏頭の露にふれつつ径を歩むと、そこには瓢の葉をきれいにまきつけた低い垣根が、あちこちに長瓢をぶら下げてゐた。この瓢箪は頸の長い、瓢逸ないかにもごまな呑気げなかほして、一とゝころに四つも五つもよりあひ、はては蔓が重くなつて地べたに尻を落ちつけてしまつてゐるのもある。こつちのえにしだの枝に捲きついてゐる一尺余りの長瓢は、丁度窓から見るのにころあひな長短で、かつかうよく宙ぶらになつてゐた。そしてその一つの蔓先は、隣の爺さんの畠へ垣根ごしに侵入し、そこに尻曲りの長瓢が、くびをもたげかげんに二つ。ころりと地上に露出してゐる。そこぎりで蔓先をとめてしまつたので径のへりに尻をむけたこの青瓢箪は、時々雨露をいつぱいふりため、青草を敷いて涼しげに太つてゆくのであつた。幸ひに朝夕潮あびのゆきかへりにこの畠径をぬける近所の子供らにももがれず、此の頃はむしろに敷きかへて先づ健在。

杉田久女の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本