小公女
本文約116,600字 ・ 読了時間 約234分
あらすじ(AIが作成しました)
父に連れられインドからロンドンへやってきたセエラ・クルウは、ミス・ミンチン女子模範学校に入学する。裕福な家庭で育った少女は、持ち前の豊かな想像力と強い心を持ち、厳しい環境でも自身が大切にする優しさを失わずに日々を過ごす。ある時は寒空の下で飢えた乞食の娘にパンを分け与えるなど、境遇の変化に左右されることなく、誰に対しても正しさと慈しみの心を持って接する姿を描く。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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はしがき(父兄へ)
この『小公女』という物語は、『小公子』を書いた米国のバァネット女史が、その『小公子』の姉妹篇として書いたもので、少年少女読物としては、世界有数のものであります。
『小公子』は、貧乏な少年が、一躍イギリスの貴族の子になるのにひきかえて、この『小公女』は、金持の少女が、ふいに無一物の孤児になることを書いています。しかし、強い正しい心を持っている少年少女は、どんな境遇にいても、敢然としてその正しさを枉げない、ということを、バァネット女史は両面から書いて見せたに過ぎないのです。
『小公子』を読んで、何物かを感得された皆さんは、この『小公女』を読んで、また別な何物かを得られる事と信じます。
昭和二年十二月菊池 寛 [#改丁]
一 印度からロンドンへ
ある陰気な冬の日のことでした。ロンドンの市中は、非常な霧のために、街筋には街燈が点り、商店の飾窓は瓦斯の光に輝いて、まるで夜が来たかと思われるようでした。その中を、風変りなどこか変った様子の少女が、父親と一緒に辻馬車に乗って、さして急ぐともなく、揺られて行きました。父の腕に抱かれた少女は、脚を縮めて坐り、窓越しに往来の人々を眺めていました。
セエラ・クルウはまだやっと七歳なのに、十二にしてもませすぎた眼付をしていました。彼女は年中大人の世界のことを空想してばかりいましたので、自然顔付もませてきたのでしょう。彼女自身も、もう永い永い生涯を生きて来たような気持でいました。
セエラは今、父のクルウ大尉と一緒に、ボムベイからロンドンに着いたばかりのところなのです。あの暑い印度のこと、大きな船のこと、甲板のこと、船の上で知り合いになった小母さん達のことなど思い起しますと、今この霧の町を妙な馬車で通っていることさえ、不思議に思われてなりませんでした。セエラは父の方にぴたりと身を寄せて、
「お父様。」と囀きました。
「何だえ、嬢や?」クルウ大尉はセエラをひしと抱きしめて、娘の顔を覗きこみました。「何を考えているの?」
「ねえ、これがあそこなの?」
「うむ、そうだよ。とうとう来たのだよ。」