TRENDIA CLASSIC
『新訳源氏物語
』初版の序
上田敏
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源氏物語の現代口語訳が、与謝野夫人の筆に成って出版されると聞いた時、予はまずこの業が、いかにもこれにふさわしい人を得たことを祝した。適当の時期に、適当の人が、この興味あってしかも容易からぬ事業を大成したのは、文壇の一快事だと思う。それにつけても、むらむらと起るのは好奇心である。あのたおやかな古文の妙、たとえば真名盤の香をいたようなのが、現代のきびきびした物言に移されたとき、どんな珍しい匂が生じるだろう。瑰の芳烈なる薫か、ヘリオトロウプの艶に仇めいた移香かと想像してみると、昔読んだままのあの物語の記憶から、処々の忘れ難い句が、念頭に浮ぶ。