家なき子
本文約141,600字 ・ 読了時間 約284分
あらすじ(AIが作成しました)
凍てつく冬の夜、寒さに震えながらパリの町を彷徨う流浪の親方と少年は、道に迷い苦難に直面する。音楽を愛する仲間と絆を深めながら厳しい旅路を歩む少年は、やがて成長し、かつての仲間たちと共に再会を果たす。本書は、大道芸人として生きる少年が、多くの人々と触れ合いながら音楽の道を切り拓き、困窮した過去を乗り越えて音楽家として成功し、社会への貢献を志すまでの物語を描く。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
💰 この本を応援する(投げ銭)
ジャンチイイの石切り場
わたしたちはやがて人通りの多い往来へ出たが、歩いているあいだ親方はひと言も言わなかった。まもなくあるせまい小路へはいると、かれは往来の捨て石にこしをかけて、たびたび額を手でなで上げた。それは困ったときによくかれのするくせであった。
「いよいよ慈善家の世話になるほうがよさそうだな」とかれは独り言のように言った。「だがさし当たりわたしたちは一銭の金も、一かけのパンもなしに、パリのどぶの中に捨てられている……おまえおなかがすいたろう」とかれはわたしの顔を見上げながらたずねた。
「わたしはけさいただいた小さなパンだけで、あれからなにも食べませんでした」
「かわいそうにおまえは今夜も夕食なしにねることになるのだ。しかもどこへねるあてもないのだ」
「じゃあ、あなたはガロフォリのうちにとまるつもりでしたか」
「わたしはおまえをあそこへとめるつもりだった。それであれが冬じゅうおまえを借りきる代わりに、二十フランぐらいは出そうから、それでわしもしばらくやってゆくつもりだった。けれどあの男があんなふうに子どもらをあつかう様子を見ては、おまえをあそこへは置いて行けなかった」
「ああ、あなたはほんとにいい人です」
「まあ、たぶんこの年を取って固くなった流浪人の心にも、まだいくらか若い時代の意気が残っているとみえる。この年を取った流浪人はせっかく狡猾に胸算用を立てても、まだ心の底に残っている若い血がわき立って、いっさいを引っくり返してしまうのだ……さてどこへ行こうか」とかれはつぶやいた。
もうだいぶおそくなって、ひどく寒さが加わってきた。北風がふいてつらい晩が来ようとしていた。長いあいだ、親方は石の上にすわっていた。カピとわたしはだまってその前に立って、なんとか決心のつくまで待っていた。とうとうかれは立ち上がった。
「どこへ行くんです」
「ジャンチイイ。そこでいつかねたことがある石切り場を見つけることにしよう。おまえつかれているかい」
「ぼくはガロフォリの所で休みました」
「わたしは休まなかったので、どうもつらい。あまり無理はできないが、行かなければなるまい。さあ前へ進め、子どもたち」