TRENDIA CLASSIC

そり(童話)

オイゲン・チリコフ

1 / 9

はてもない雪の野原を、二頭だてのそりが一だい、のろ/\と動いてゐました。そりにつけた鈴が、さびしい音をたてました。まつ白にこほりついた、ぼろござをきせられた馬は、にえたつた湯気のやうな息を、ひゆう/\はきつゞけました。

ぎよ車台には、こちらの村の百姓の子で、今年十三になるリカがすわつてゐます。お父つァんの古帽子をかぶつて来たのはいゝけれど、とてもづば/\で、ちよいとでもうつ向くと、ぽこりと、鼻の上までずりおちて来ます。リカは、それを、あらつぽくおし上げながら、

「ほい、ちきしよう。うすのろめ。はやくあるかねえか。ほい。」と、馬をどなり/\しました。

そりの中には、冬休みで田舎の家へかへつていく、中学二年生のコーリヤが、からだへ外とうや、ふとんをまきつけて、のつてゐます。北風は、ものすごいうなりをたてゝ、ふきまくり、リカの鼻をつねつたり、コーリヤの外とうをつきとほして、氷のやうな息をふきかけたり、指をこち/\にして、動かなくしてしまふかと思ふと、こんどは、ぞつと、くびすぢをなめまはしたりします。リカの靴は、まつ白にこほりついてゐます。帽子の下からのぞき出してゐる髪の毛は、まるで年よりの髪のやうに灰色になつてゐます。

「リカ。」

中学生のコーリヤはたまらなくなつて、どなりました。

「なにかもつと着せてくれよ。寒くつて寒くつてたまらないよ。」

「なんだつて? 寒い? ちよッ。」

リカは、かういひ/\、ぎよ車台からとびおりて、帽子をおしあげながら、そりのはうへいきました。そして、大きな手袋をはめた手で、コーリヤのかけてゐる毛布をなほしはじめました。

「おや、ふるえてるな。」

リカはからかふやうにいひました。

「どうしたの? こゞえちやつたんかね。鼻をほら、鼻をかくさないかよ。家へいくまでに鼻がなくなつちまふよ。みなさい、まあ、なんておまいさまの鼻、赤くなつてんだ。」

「なんだい。鼻なんかどうだつていゝぢやないか、はやくやれよ。」

そこで、リカは、じぶんの鼻をこすつて、手袋をはめて、また、ぎよ車台にとびのりました。

「どう/\/\、ちきしよう。」