詩集夏花
本文約4,800字 ・ 読了時間 約10分
あらすじ(AIが作成しました)
燕の渡来、砂場の遊び、夢の中の記憶、荒野を舞う蜻蛉、夜の海を照らす燈台の光、夏の日の追憶、馬の佇まい、朝顔の開花、八月の蝶の息絶え、水中で開く造花、鳥と子供の遭遇、星空と葦の音、野分の夜、若くして去った友の形見、雪解けの春、稚児の微笑、早春の訪れ、孔雀の悲しみ、夏の山上の嘆き、駆ける馬の姿を綴る詩集である。季節の移ろいや自然の営み、そしてそこに見出される内面的な感情の揺らぎを、独自の感性で描き出している。
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目次
燕
砂の花
夢からさめて
蜻蛉
夕の海
いかなれば
決心
朝顔
八月の石にすがりて
水中花
自然に、充分自然に
夜の葦
燈台の光を見つつ
野分に寄す
若死
沫雪
笑む稚児よ……
早春
孔雀の悲しみ
夏の嘆き
疾駆
[#改ページ]
おほかたの親しき友は、「時」と「さだめ」の
酒つくり搾り出だしし一の酒。見よその彼等
酌み交す円居の杯のひとめぐり、将たふためぐり、
さても音なくつぎつぎに憩ひにすべりおもむきぬ。
友ら去りにしこの部屋に、今夏花の
新よそほひや、楽しみてさざめく我等、
われらとて地の臥所の下びにしづみ
おのが身を臥所とすらめ、誰がために。
森亮氏訳「ルバイヤツト」より [#改ページ]
燕
門の外の ひかりまぶしき 高きところに 在りて 一羽
燕ぞ鳴く
単調にして するどく 翳なく
あゝ いまこの国に 到り着きし 最初の燕ぞ 鳴く
汝 遠くモルツカの ニユウギニヤの なほ遥かなる
彼方の空より 来りしもの
翼さだまらず 小足ふるひ
汝がしき鳴くを 仰ぎきけば
あはれ あはれ いく夜凌げる 夜の闇と
羽うちたたきし 繁き海波を 物語らず
わが門の ひかりまぶしき 高きところに 在りて
そはただ 単調に するどく 翳なく
あゝ いまこの国に 到り着きし 最初の燕ぞ 鳴く
[#改ページ]
砂の花 富士正晴に
松脂は つよくにほつて
砂のご門 砂のお家
いちんち 坊やは砂場にゐる
黄色い つはの花 挿して
それが お砂の花ばたけ
… … … … … … … … … … … … …
地から二尺と よう飛ばぬ
季節おくれの もんもん蝶
よろめき縋る 砂の花
坊やはねらふ もんもん蝶
… … … … … … … … … … … … …
その一撃に
花にうつ俯す 蝶のいろ
あゝ おもしろ
花にしづまる 造りもの
「死んでる? 生きてる?」
… … … … … … … … … … … … …
松脂は つよくにほつて
いちんち 坊やは砂場にゐる
[#改ページ]
夢からさめて
この夜更に、わたしの眠をさましたものは何の気配か。
硝子窓の向ふに、あゝ今夜も耳原御陵の丘の斜面で
火が燃えてゐる。そして それを見てゐるわたしの胸が
何故とも知らずひどく動悸うつのを感ずる。何故とも知らず?