TRENDIA CLASSIC

奇友往来

牧野信一

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いつも私はひとりで、教室の一番うしろの席について、うつらうつらと窓の外を眺めてゐる文科の学生であつたが、毎時間毎時間そんな風にして居眠りをしたり、屋根を見あげたりしてゐるうちに、恰度私の窓と真向ひにあたる政治部の教室で、やはり私と同じやうにぼんやりとして此方の窓を眺めたり、空を見あげたりしてゐる眼の据つた何処となく鷲を想像させるかのやうな精悍な容貌の学生と顔なじみになつてしまつた。やがて彼は、私と視線が出遇ふ毎に軽い微笑を浮べるようになつたが、何故か私はそんな時、慌てゝ顔を反向けるのが癖だつた。

或る麗かな天気の日に校庭の芝生に胡坐をかいて私が弁当を喰つてゐると、私の直ぐ傍らでひとりの小倉の袴を着けた学生が胸から上に大きく拡げた新聞紙をかむつて大の字なりに手脚を伸したまゝ大鼾をあげて眠り込んでゐた。板草履が片方だけ脱げて裏返しになつてゐた。袴の紐にぶらさがつてゐるインク瓶が腹の上に載つて、大きな呼吸といつしよに波に浮んだ小鳥のやうにふわふわと揺れてゐた。彼は、大きな口でもあけてゐるらしく新聞紙のそのあたりはさかんな上下動にふくれたり吸ひついたりして天幕のやうであつた。

こんな麗かな日の休み時間には、そこの芝生には気まゝ勝手の姿の学生達が隙間もない位ゐに一杯寄り集ふてゐるのが慣ひであつたから、直ぐ傍らにそんな寝像の者を見出しても別段珍らしくもなかつたのだが、その鼾声がだん/\と高まるに伴れて私は耳ざはりになつて適はなくなつたので、もつと離れたところへ逃れて弁当をつかひ終らうとして、箸をもつたまゝあたりの空席をきよろきよろと物色しはぢめた。

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