TRENDIA CLASSIC

心象風景(続篇)

牧野信一

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岡といふ彫刻家のモデルを務めて私がそのアトリヱへ通ひ、日が延びる程の遅々たるおもむきで、その等身胸像の原型が造られてゆくありさまを緯となし、その間に巻き起る多様なる人事を経として、そしてその胸像が完成される日までを同時に本篇の完結と目指して、これには凡そ四五十枚の前篇がありますが、それはそれとして、新たに稿をすゝめます。

大二郎と閑吉が、在らぬ話を何かと意味あり気に私とりら子に就いて、飛んだ目配せのやりとりを交はしたりするので、私はついあかくなり、と云つて、もうりら子と約束をしてしまつた以上、その来訪を待たなければならず、困り果てゝ、ふらふらしてゐると、泉水の鯉を眺めてゐた細君は、いきなりくるりと振り向くや物をも言はずぴしやりと私の頬を力一杯打つた。そして、また凝つと、白い雲が映つてゐる小さな水の上を見詰めてゐた。私は、むしろ小気味の好い痛痒を感じたが、実際の痛さよりも誇張した苦痛の表情を浮べて、

「痛いなあ!」

と叫んだ。

すると同時に彼女がもう一辺振り返つたので、私は仰天して跳びのき、そのまゝ裏木戸から逃げ出した。嗤ひに似た大二郎と閑吉の声をうしろに聞いた。私は、今りら子に告げた道筋を逆に駈けて行くと、街角の煙草屋の前で、灰色のボレロを着た無帽の彼女に出会つた。

「来て下すつたの、迎へに?」

「いゝえ……」

私は慌てゝかぶりを振つたが、未だ別段に左程も親しくもない相手に、然もその人を副主人公として起されたそんな突飛な騒ぎをまさか在りのまゝに吹聴するわけにもゆかず途方に暮れてゐると、何故か彼女は突然噴き出して、

「馬と猫にからかはれたんでせう、解つたわよ、関はないから行きませうよ。」

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