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TORENDIA

早春のひところ

本文約11,800字 ・ 読了時間 約24分

あらすじ(AIが作成しました)

孤独な学生である「私」は、叔母の家の寄宿先で、同じく暮らす美しい娘・千枝子の奔放な言動に翻弄される。閉塞的な日々を送っていた彼は、ある出来事を機に応援団へ入団し、大音寺らと共に活動に没頭する。新たな仲間と過ごす中で、彼は内気な自分から脱却し、活気ある青年へと変貌を遂げていく。本書は、閉鎖的な日常から解放される過程と、周囲の人々との交流を軸に展開する作品である。

牧野信一

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一

そのころ私は、文科の学生でありましたが、小説といふものにいさゝかの興味もなく――といふよりも小説の類ひを読んだことがなかつたので――主に西洋の哲学や科学の書に親しみ、興味と云へば星の観測ぐらゐのものでした。ほとんど友達といふものもなく、大概自分の部屋に引込んで、何かこつこつと机の上で辞書を引いたり、書抜をこゝろみたりしながら漫然と孤独の時間を過して居るといふ風でした。――夜になると芝居のはやしの音が、かなりはつきりと響いて来るやうな街なかの医院の二階でした。はやしの音は明治座の芝居からです。その小屋が久松町の川ふちにあつたころで、私は叔母の縁家先だつたその家に寄宿して毎日規則正しく学校(早稲田)へ通つてゐました。しかし私は波多野博士の哲学史の時間の他は図書館に居ることの方が多かつたのです。

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