TRENDIA CLASSIC

ラガド大学参観記

牧野信一

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往来で騒いでゐる声が何うも自分を呼んでゐるらしく思はれるので私は、ペンを擱いて、手の平を耳の後ろに翳した。

「誰だな?」

私は呟いだ。私は首を傾げたが、執筆に熱中してゐる頂上だつたので、そんな騒ぎも忽ち私の仕事の世界(Flattering Phantom)と混同されてしまつて、私は眼を輝かせながら更に呟いだ。

「GOD KHONSU の帰来かな? あの瑠璃色の翼を持つた大鳥が獲物を携へて、もう戻つて来たのか知ら?」

私は人々の騒ぎを覆つて堂々と打ち響いてゐる波の音を、人造大鳥である KHONSU の羽ばたきと聞き違へたらしい。

――私は、だゞ広い書斎の真ン中で、天井の隅から空(Vanity of Vanity)を覗いてゐる望遠鏡、一方のハンドルを回すと轆轤仕掛けで程好く廻転をする地球儀(私の発案制作に成る)、丁字、円形、三角等の大型定規、模型・発動機、その他種々なガラクタ様の物理器具等を控へて、

「ラガド大学参観記」

と称する記行録を、年余の歳月を費して作成してゐたのである。――私の部屋の天井には、これも私の発案作成に依る、大星座図が貼りつけられて、月々に依つて、その星座の隠見自存に工夫されてゐるもので、恰度W形のカシオペイア座が、きらびやかな翼をマールの花のやうに伸し、「ダイア」の女王がその花に凭つてゐるかのやうに目醒ましい秋の終りに近い晩であつた。その折々の空に従つて私は色紙製の星形を箱からとり出して、これを天空にピンで止めて、サソリ座も獅子座も鯨座も難なく現出させてゐた。

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