羽根蒲団の上に寝ころんでゐるやうだ――などゝ私は思つた位でした。――午頃まで、この儘眠つてやらうかしら、などゝも私は思つたりしました。
春先で、思ひ切り好く晴れた朝の海辺なのです。――もう、かれこれ二時間も前から私は渚の暖かい砂の上で退屈な、然し極めて快い愚考に自ら酔つたまゝ、思ふさま胸を拡げて大の字なりにふんぞり反つてゐるのです。その私の肉体は、単に洞ろな、たゞ一寸軽い頭の爽々しさだけを感じてゐる一個の物体に過ぎません。――漁の舟はすつかり出払つて了つて、浜辺のいちばん静かな刻限です。はるか向ふで脊中を丸くした老人が凝つと綱を繕つてゐました。その背後で赤犬が一匹何かしきりにはしやいでゐるのが見えました。
「ひとりで凝つとこの儘かうしてゐたい。」
私は、ふとそんなことを思ふと同時に奇妙なテレ臭さを覚えました。――向方を見ると老人は、もう仕事を終へて桟橋を上つて行く処でした。――もう午に近いんだな! などと呟きながら私は、上向きの儘釈然としてゐると、またとろとろとする甘い睡さがムズムズと砂から伝はつて私の五体に滲み込みました。
暫くたつて私がひよいと堤防の方を見ると、その上に一寸つまんで置いたかのやうにポツリと女の姿がひとつ現はれてゐました。その箱庭の人形のやうな女は私の方をキヨトンと眺めてゐます。――まともに陽をうけて、それでなくとも近視眼の為か、顔を顰めてゐるらしい様子が、勿論明瞭には見えませんが、照子に相違ありません。で私は、僕だよ、たしかに僕だよ、早くお出でよ――といふつもりで右手を高く差し伸べました。彼女は直ぐに応じて砂地に降りると、全身が笑つてゐるやうな格好で駆け始めました。
駆けないでも好いのに……などと私は思つて、快く自惚れた僭越な眼で女の姿を眺めてゐました。
「直ぐに解つた?」
「始めツから解つてゐたわよ。」
私の自惚れとは恰で反対に、白々しく快活に照子は笑ひました。