TRENDIA CLASSIC

環魚洞風景

牧野信一

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「まつたく、ひどい音響だね! あれは――もう僕は、大抵慣れたつもりなんだが、だがさつぱり駄目だよ。――これほど突拍子もないものになると、一日に何辺繰り反されても、その度にひどく驚かされるんだ、その余韻が消えるまでには、相当の時間を要するほどに――だ。……で、ね、もう起る時分だな、と、さう思つて、時にはね、いたづらな反抗心といふやつをもつてさ、つまり――何の、さアやるんならやつて見ろ、といふほどの心になつてさ、(それは、まア例へばなんだぜ、勿論――)、待ち構へて見るんだ、と、ぴつたりとその予期にあたつてさ、あいつが此方の呼吸と一処にだね、ドカン! と鳴るんだね、でも駄目だね、うつかりしてゐる時に打たれるのと、まつたく同じやうに驚かされてしまふんだ――尤も、この頃の僕の心は、余ツ程……」

たつた今、藤村は、山のいつもの音響に出遇つて、思はず、

「アツ!」と、(私も同じく――)驚きの声を挙げてしまひ、そして二人は思はず顔を見合せて間の抜けた微笑を浮べた時、そんなに拙い調子でクドクドと変な説明をした。

「それにしても、今のはまたバカに大きかつたね。」

私も仰山な驚き方をしてしまつたのが、気恥しかつたので、さう云つた。

山の音響といふのは、鉄道のトンネル工事が初まつてゐるこの町の西側を取り囲んだ大きな山から響く爆破の音なのである。――山の両裾が翼になつて、湾を抱いてゐる。小さな町は、そのふところで温泉の煙りに蒸されてゐる。朝から夕方まで、何回となく大小の爆音が、もうすつかり慣れて平然と静寂を保つてゐる街の頭上をかすめ、或ひはふところの街に、物思ひに沈んだ酔漢が自分の胸に吐息を吐きかけるやうに、轟々と渦巻き、ゆつたりとした足どりで海の上へ消えて行くのであつた。

「いくら退屈な時だと云つても、バカな気持などの説明をされる位面白くないことはないね。」などゝ私は、勿体振つた藤村の云ひ方を笑つたりしたが、

「だが、僕だつて、あれにはさつぱり慣れないよ、実際あれ位の音響となれば、普通なら夫々が、相当の一事件なんだらうね。」と、など、此方も一寸尤もらしく首を曲げたりして、何でもないことを意味あり気にした。

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