TRENDIA CLASSIC
コロボックル風
俗考
坪井正五郎
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コロボックル風俗考(第一回) 理學士 坪井正五郎 緒言 此風俗考を讀むに先だちて知らざるべからざる事數件有り。此所に列記して緒言とす。
コロボックルとは何ぞ。コロボックルとは元來北海道現住のアイヌ、所謂舊土人が己れ等よりも[#「己れ等よりも」は底本では「巳れ等よりも」]更に舊く彼の地に棲息せし人民に負はせたる名稱の一なり。然れども此人民の遺物なりとアイヌの言ひ傳へたる物を見るに本邦諸地方の石器時代遺跡に於て發見さるる古器物と同性質にして彼も此も正しく同一人民の手に成りしと考へらるるが故に、余は北海道以外に生存せし者をも人種を等しうする限りは、總てコロボックルなるアイヌ語を以て呼ぶ事となせり。
コロボックルの意義 コロボックルとはコロコニ即ち蕗、ボック即ち下、グル即ち人と云ふ三つの言葉より成れる名稱にして、蕗の下の人の義なり。アイヌに先だちて北海道の地に住せし人民は蕗の葉を以て其家の屋根を覆ひたる故アイヌは彼等に此名を與へたりと云ふ 此名は决して何れの地のアイヌも一樣に知れるものにはあらず。或地方にてはトイチセクルと云ふ名行はれ、或地方にてはトイチクルと云ふ名傳はれり。此他に異名多し。余が殊にコロボックルなる名稱を撰びたるは其口調好くして呼び易きと、多少世人に知られたるとに由るのみ。余は此人民の家は何地に於ても蕗の葉にて葺かれたりと信ずるにはあらす。讀者諸君コロボックルなる名を以て單に石器時代の跡を遺したる人民を呼ぶ假り名なりと考へらるれば可なり。