第一歌
詩神への祈。 題目の略示。 アポローンの祭司其女クリュセーイスの贖を求めてアガメムノーンに辱めらる。 祭司の祈に依りアポローン疫癘をアカイア陣中に湧かしむ。 豫言者カルハースの説明。 アガメムノーンとアキリュウスとの爭。 アガメムノーン祭司の女を返し、其代償として先にアキリュウスの獲たるブリイセーイスを奪ふ。 アキリュウス怒り、部下を率ゐて水陣に退く。 神母テチス其哀訴を聞き、ヂュウスの救を乞ふことを約す。 クリュセーイスの解放。 神母オリュンポスに登り、ヂュウスに哀訴して聽かる。 ヂュウス約すらく、アキリュウスの屈辱を雪ぐ迄はトロイア軍に戰勝を許すべしと。天妃ヘーレー之を悟りて天王と爭ふ。 ヘープァイストス之を和解せしむ。
*神女よ歌へ、アキリュウス・*ペーレーデース凄じく
燃やせる瞋恚――その果は*アカイア軍におほいなる
禍來たし、勇士らの猛き魂*冥王に
投じ、彼らの屍を野犬野鳥の餌と爲せし
すごき瞋恚を(斯くありてヂュウスの神意滿たされき) 5
*アートレ,デース、民の王、および英武のアキリュウス、
猛けり*爭ひ別れたる日を吟詠の手はじめに。
1 詩神ムーサ(複ムーサイ) 1 ペーレーデースとはペーリュウスの子の意。 2 正しく曰はばアカーイアー。當時はグリースの名稱無し。國民はアカーイオス(複アカーイオイ)又アルゲーオイ又ダナオイとも呼ばる。 3 冥府の王アイデース或はハイデース、いつもペルソーナとして冥府を見る。XXIII244に初めて冥府となす。 6 アートレーデースを縮む。,は省略の記號、以下皆同樣、アートレーデースはアトリュウス(又アートリユウス)の子の意、アトレーデースとも他の詩歌には發音す。ホメーロスの詩に於ては必ずアートレーデース。(Brasse's Greek Gradus) 7 「爭ひ別れたる日」のこのかた「ヂュウスの神意滿たされき」と解する人々あり。
いづれの神ぞ、爭を二雄の間に起せしは?
そはレートーとヂュウスとの*生める子――彼は其祭司
クリュセーイスを恥ぢしめしアートレ,デースにいきどほり、 10
陣に疫癘湧かしめぬ、斯くて衆軍亡び去る。