本文へ移動
TORENDIA

監獄部屋

本文約5,800字 ・ 読了時間 約12分

あらすじ(AIが作成しました)

北海道の川の上流で水力電気工事に従事する三千人の労働者たちは、監獄部屋と呼ばれる地獄のような環境で過酷な強制労働に晒されている。虐待と死が日常化する中、政府の巡検が来るとの噂を耳にした労働者たちは、過酷な実態を訴える機会を得たと歓喜する。しかし、到着した官憲の一行は偽物であり、正体を現した彼らに労働者たちは残酷な報復を受ける。最終的に本物の巡検が訪れた際には、もはや誰一人として不平を述べる気力はなく、当局の調査報告には虐待の事実は存在しないと記される。

羽志主水

速度
🎧 監獄部屋 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 7

(一)

同じ持場で働いて居る山田という男が囁いた。

「オイ、何でもナ、近けえ内に政府の役人の良い所が巡検に来るとヨ」

「エッ、本当かイ夫りゃア、何時だってヨ」

「サア、其奴ア判ら無えがナ、今度ア今迄来た様な道庁の木ッ葉役人たア違うから、何とか目鼻はつけて呉れるだろう、何時も何時も胡麻化されちゃア返るんだが、今度ア左様は往くめエ、然し之で万一駄目だとなりゃ、此世は真暗闇だぜ」

「左様サ、何しろ役人位えにアビクビク為ねえ悪党揃だからナ、今迄の木ッ葉役人は瞞かされたり、脅かされたり、御馳走されたりで追ッ払われたんだが、東京から大所が来ると成りゃ、今度ア、其手じゃア往かねえ、何しろ一日でも早く来て、俺ッちの地獄の責苦を何とかして呉れなけりゃ、余命ア幾何もありゃしねえや」

「マア、厳重吟味して圧制な……」

突然に近い所で、巨い声がした。

「何奴だア、何ヨグズグズ吐きゃアある、土性ッ骨ヒッ挫かれねエ用心しろイ」

帝釈天と綽名のある谷口という小頭だ。

「仕事の手を緩めて怠ける算段計り為てけツかる、互に話ヨ為て、ズラかる相談でも為て見ろ、明日ア天日が拝め無えと思え」

実際ウカウカして居ると容赦なく撲ったり、蹴倒したりするから、ダンマリで又労役に精を疲らす、然し鳥渡鵜の目鷹の目の小頭、世話役の目の緩むのを見て同様の会話が伝わる、外の組へも、又其外の組へも、悪事じゃ無いが千里を走って、此現場中へ只た一日で噂は拡まる。

(二)

現場といっても、丸ノ内のビルジング建築場でも、大阪淀屋橋架換工事場でも、関門連絡線工事場でも無い。往年、鬼怒川水電水源地工事の折、世に喧伝された状況を幾層倍にして、今は大正の聖代に、茲北海道は北見の一角×××川の上流に水力電気の土木工事場とは表向、監獄部屋の通称が数倍判りいい、此世からの地獄だ。

羽志主水の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本