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TORENDIA

岩波文庫論

本文約2,600字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

円本の流行に刺激された著者が、学芸普及の理想を掲げて創刊した岩波文庫の理念と歩みを綴る。古典の尊重と厳選、最善の編集態度の追求に重きを置き、世界情勢が渾沌とする中、不朽の典籍に親しむことが国民の根本的教養であると説く。先蹤であるレクラム文庫を意識しつつ、古典の一大集成を目指す出版の原点と、文化水準の向上を期す使命感を自らの言葉で明らかにしている。

岩波茂雄

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編集部より岩波文庫について語れとの話ですから、思いつくままを申し上げます。現在は文庫時代ともいってよいほど各種の廉価版が行なわれ、どこにおいても欲しいものが自由に求められることになっているが、今より十数年前は予約出版の円本が流行して一世を風靡したのである。この流行によって学芸が一般に普及した功績は認めねばならぬが、また一方、好ましくない影響も少なくなかった。特に編集、翻訳、普及の方法などにははなはだ遺憾の点のあったことはこばむことは出来ない。この流行に刺激されて、学芸普及の形式はかくありたいものだと小さい私の野心から生まれたものが岩波文庫である。岩波文庫を刊行するに際し、私が読書子に寄せた辞の

「近時大量生産予約出版の流行を見る。その広告宣伝の狂態は姑く措くも、後代に貽すと誇称する全集が其編集に万全の用意をなしたるか。千古の典籍の翻訳企図に敬虔の態度を欠かざりしか。更に分売を許さず読者を繋縛して数十冊を強ふるがごとき、果して其揚言する学芸開放の所以なりや。吾人は天下の名士の声に和して之を推挙するに躊躇するものである。」

という一節を読み直してみても、その激越なる口調に当時の流行に対しいかに私が反撥心を持ったかがわかる。良書を廉価にということは本屋として誰でも思いつくことであるが、私も学生時代に親しんだカッセル版、レクラム版のような便宜なものをいつか出したいと志してきた矢先、ちょうど円本の流行はこの念願を実現する動因となったのである。

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