本文へ移動
TORENDIA

涸沢の岩小屋のある夜のこと

本文約7,000字 ・ 読了時間 約14分

あらすじ(AIが作成しました)

北穂高から涸沢のカールの岩小屋へ下りた四人の仲間は、静寂に包まれた夜に星空を眺めながら腰を下ろす。山で仲間を失った過去の記憶を背景に、山での死と自身の運命について問いを投げかけ、山登りと人生、そして生のあり方について深く対話を交わす。若者たちが山での経験を通して抱いた真摯な思索と、青春の情熱をありのままに綴る随筆。

大島亮吉

速度
🎧 涸沢の岩小屋のある夜のこと / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 10

自分たちの仲間では、この涸沢の岩小屋が大好きだった。こんなに高くて気持のいい場所は、あんまりほかにはないようだ。大きな上の平らな岩の下を少しばかり掘って、前に岩っかけを積み重ねて囲んだだけの岩穴で、それには少しもわざわざやったという細工の痕がないのがなにより自然で、岩小屋の名前とあっていて気持がいい。そのぐるりは、まあ日本ではいちばんすごく、そしていい岩山だし、高さも二千五百米突以上はある。これほど高くて、自由で、感じのいい泊り場所はめったにない。人臭くないのがなによりだ。穴のなかに敷いてある偃松の枯葉の上に横になって岩の庇の間から前穂高の頂や屏風岩のグラートとカールの大きな雪面とを眺めることが出来る。そのかわりいつもしゃがんでいるか、横になっていなければならないほどに内部は低い。景色と言っては、なにしろカールの底だけに、ぐるりの岩山の頂上と、カールの岩壁と、それに前に涸沢の谷の落ちてゆくのが見えるだけで、梓川の谷も見えない。そしてそれにここにはあんまりくるものもいない。実にしずかだ。そこがいいんだ。そこが好きなんだ。米味噌そのほか甘いものとか、飲物のすこしも背負い込んで、ここへやって来て四、五日お釜を据えると、まったくのびのびして、はじめて山のにおいのするとこへ、きたような気がする。

同じジャンルの朗読つきの本