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TORENDIA

グーセフ

本文約12,500字 ・ 読了時間 約25分

あらすじ(AIが作成しました)

極東での兵役を終え帰郷の途につく無期帰休兵のグーセフは、船の病室でパーヴェル・イヴァーヌィチという男と出会う。病に伏せりながら、故郷の家族や極東での生活に思いを馳せるグーセフに対し、社会への憤りを抱えるパーヴェル・イヴァーヌィチは知識階級や軍の体制を批判する。船内で病状が悪化し、意識が混濁する中で故郷の夢を見るグーセフの姿と、航海を続ける船の情景を描く。重病を抱え帰郷を目指す兵士の孤独な心情と、船という閉鎖的な空間における対照的な二人の交流を軸に展開する。

チェーホフ Anton Chekhov

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一

暗くなって来た、間もなく夜だ。

無期帰休兵のグーセフが、釣床から半分起きあがって、小声で言う。

「ねえ、パーヴェル・イヴァーヌィチ。こんな事をスーチャン〔(蘇城、ウラジオの東方約百キロにある炭坑地)〕の兵隊が言ってたっけ。奴の乗ってた船に大きな魚が突き当って、船底をぶち抜いたってね。」

話しかけられた素性の知れぬ男は、船の病室の皆からパーヴェル・イヴァーヌィチと呼ばれていたが、まるで聞えなかったように黙っている。

そしてまた寂とする。……風が索具を鳴らし、スクリューが動悸を打ち、波がざざっとぶつかり、釣床がきしむ。が、これにはもうとっくに耳が慣れているので、あたりのものすべてが寐入って沈黙しているように思われる。退屈だ。一日じゅう骨牌をしていた三人の病人――その二人は兵卒で一人は水兵である――も、もう寐入って寐言をいっている。

どうやら揺れて来たようだ。グーセフの背の下の釣床が、緩やかに上ったり下ったりする。まるで溜息でもしているようだ。――それが一度、二度、三度……。何か床にがちゃんとぶつかった。水差しが落ちたのだろう。

「風の奴め、いよいよ鎖から抜け出したぞ……」と、耳を澄ましてグーセフが言う。

今度はパーヴェル・イヴァーヌィチが咳払いをして、いらいらした調子で返事をする。

「船が魚とぶつかると思えば、風が鎖から抜け出す。……鎖から抜け出すって、一体風は獣かってことよ。」

「正教徒はそんなふうに言うんですよ。」

「じゃ正教徒ってのは、お前も同然物を知らねえ。……勝手な熱ばかり吹きやがって、胸にこう手を当てて、考えてから言わなくちゃいけないねえ。お前さんはわからず屋だよ。」

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