小田原の夏
本文約1,200字 ・ 読了時間 約3分
あらすじ(AIが作成しました)
額の汗と薄着で夏の到来に気づく「僕」は、散乱する草稿の海をタンクの如く越えようと葛藤する。窓外の海水浴場の賑わいを横目に執筆に向かう日常と、潜航艇のラッパ手として海中の怪物に挑む夢の狭間で苦悶する姿を描く。やがて届く水泳の誘いをきっかけに、書斎に閉じこもる文士の孤独な現実と内面的な闘争を綴る随筆風の短編。
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忘れる
「暑さ、涼しさの話。」
おや/\、もう夏なのか!
僕は忘れてゐた。――それで、壁の鏡をのぞいて見ると僕の額は玉の汗だ。なるほど僕は薄いシヤツ一枚だ、白いパンツだ。いつ頃僕はこんな身なりに着換へてゐたことか?
この机の一輪ざしには桃の花が活けてある。だから僕は、未だ、夏になつてゐるとも思はなかつた、誰が活けたものなのか知らないが、何時にも窓をあけることもなしに、煙草を喫しながら時折眼をそゝいでゐた花だ。
だが、今はじめて、仔細にみると、何だ! これは造り花か! 蜘蛛の巣が張つてゐるではないか、馬鹿々々しい。
棄てゝしまへ!
そして窓をあけて見よう。
タンク
あゝ、泳いでゐる/\、あんなに沢山の人が、何とまあゝ面白さうに!
僕も、このまゝ、素ツ裸になつて飛び出したくなつたが、僕の机の上には、冬から春へかけての季節を背景にした苦しい文章の草稿が、戦乱の原野の如く、四散してゐる……夜も昼もなく、そして、この戦ひには、春も夏もなく――僕は、タンクの如く、野を過ぎ、丘を寄切り、山を越えて行かなければならないのだ。――さうだ、この窓は、タンクの展望口だ。うか/\と、あけツ放しで、口などあけて、渚の方などを見惚れては居られないのだ。
どうせ、タンクの中は蒸し暑いに決つてゐる。
夢
そんなことを思つて、午休みに僕はゆれ椅子に凭つてうとうとゝ居眠りをしてゐると、潜航艇の乗組員になつた夢を見た。
「僕ははじめて、これに乗つたんだけれど、そして、もつと不気味なものかと想つてゐたが、これぢや僕は自分の書斎にゐるのと少しも変らないよ。これで、これが、そんな深い海の底を走つてゐるのかと思ふと、嘘のやうだ! 面白い/\。」
「今、黒煙りのやうなものが窓先をかすめたらう。あれは吾々の五倍も大きい蛸入道だぞ。」と傍らの士官が説明した。
「あそこに、しのんで来たのは敵艦かな?」
「あれは、大烏賊の主だ。」
「デビル・フイツシユ奴!」
いつの間にか私は、ラツパ手であつた。吾々は、それらの怪物を退治に来た決死隊なのであつた。
艦内は、にわかにどよめいた。
「ラツパ卒! 何故、戦闘準備の合図をせんのか!」