TRENDIA CLASSIC

美智子と日曜日の朝の話

牧野信一

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日曜の朝でした。――「稀にはお母様のお手伝ひをしたら、」とお母様はちよつと機嫌の悪い顔をなさいましたので、美智子は、

「だつてお母様……」と、あべこべに不機嫌な顔をして、「だつて……だつて……」と、わけのわからない弁解を示して、おさげに結むだリボンを前に廻して、それをもてあそびながら、もう一遍「だつて……」と云ひました。

「そら始つた、こんな時に限つて勉強なんでせう。」

「だつて……」

「勉強なの?」

斯うお母様に先を越されてしまふと、美智子は更に弱つてしまひました。「お母様は何んてうまいことをおつしやるんでせう。」と思つた美智子は、もうそのお母様の今の言葉でムツとしてしまひました。――あゝ美智子は何といふわが儘な子でせう。それはお母様のおつしやり方も少し皮肉に過ぎた形もないではありませんが、兎に角美智子はお母様のお手伝ひは勿論、勉強をしようなんて意思は毛頭なかつたのですもの。

私? 私ですか? さあ私は、この二人のどつちの味方になるでせう? 少し考へる時間を与へて下さい。

私にも、美智子の母の心持はよく解ります――私だつて斯う見えても、もう一人前の大人ですから、さつき、「あゝ美智子といふ子は何といふ我が儘な子でせう。」なんて慨嘆に似た声を出して見たのです。ところがこの私――大人とは云ふものゝまだ学生時代の夢から脱けることの出来ないでゐる大人なのですから、何の見得もなく正直に、私のこの場合の感情を表明したならば、「美智子、怒れ怒れ。」といふ気持も多分にあつたらうと思ひます。

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