羽根蒲団の上に寝ころんでゐるやうだ――などと私は思つたくらゐでした。紫色をした大島が私の網膜に「黒船」か何かのやうに漂うて映りました。――午頃まで、このまゝ眠つてやらうかしら……などとも私は思つたりしました。
春先で、思ひきり好く晴れた朝の海辺なのです。――もう、かれこれ二時間も前から私は、渚の暖い砂の上で退屈な、然し極めて快い愚考に自ら酔つたまゝ、思ふさま胸を拡げて大の字なりにふんぞりかへつてゐるのです。その私の肉体は単に空ろな、たゞ一寸軽い頭の爽々しさだけを自分だけで意識してゐる一個の物体に過ぎません。
漁の舟はすつかり出払つて了つて、浜のいちばん静かな刻限です。はるか向うで背中を丸くした老人が網を繕つてゐました。そのうしろで小さな赤犬が一匹何か切りにはしやいでゐるのが見えました。
「独りで凝とこの儘かうしてゐたい。」
私はさう思ふと、ふと、かうして凝としてゐるのがイヤになりました。何だか殊更に閑寂を悦ぶ、といふ風なキザさ加減が可笑しくなつたのです。然しそれも亦私の愚かな虚栄心です。何故なら、全く私の意識はかうしてゐることの方にはるかに満足を感じて居りました。……結局、私は自分勝手にテレて、妙な気恥しさを感じたもので、独りで妙な薄笑ひを口もとに浮べながら、むつくりと砂を払つて立ち上りました。さうして老人の居る方へ歩いて行きました。
「大分精が出るね。」
知つてゐる漁師の年寄だつたので、私はさう呼びかけました。
「純造さんかえ、いつお帰んなすつたよう?」
年寄は年寄らしい親しみ深い眼を挙げて私を見上げました。年寄の嬌態は、私の好きな井上正夫に私が見るやうな、堅苦しい鷹揚な懐しみを覚えさせました。私は、老人の傍へ話しに来てよかつた、と思ひました。さうして、(幾日だつたかしら?)と刻明にもその日を数へようとしてゐましたが、一寸何日に帰つて来たかが思ひ出せませんでした。何でも五六日前なのです。
「もう学校はお休みなんけえ?」
私がまだ前の質問に答へられないでゐるうちに年寄はまた問ひを発しました。
「あゝ。」