TRENDIA CLASSIC

香水の虹

牧野信一

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窓帷をあけて、みつ子は窓から庭を見降した。やはらかな朝の日射が、ふかぶかと花壇の草花にふりそゝいでゐる。

姉はカーネーシヨンの花が好きだつた。花壇の隅に美しく咲き誇つてゐる桃色の花を眺めながら、みつ子は姉のことをしきりに想ひつゞけた。きらきらと映へた外光はもの懐しく流れてゐる。

姉様がお嫁に行つてしまつてから、もう一年たつたのだ。みつ子は今更のやうにそんなことを考へた。行つた当座は少くも、一週に一度は必ず手紙を寄越したけれど、それもいつの間にか怠り勝になつたと見へて……。

「あゝさうだ。」と、みつ子は恰も突然何かを見出したやうに点頭いた。……「ふた月ばかり前に絵葉書をたつた一枚寄したきりなんだ。」

今更そんなことは考へて見る程のこともないのだが、ふとさう想ひ出して見ると、みつ子は何だか姉が恨めしく思はれてならなかつた。別れるとき、あんなにも堅く、ふたりで涙をこぼして約束したにもかゝはらず……「お姉様もずゐぶんだわ!」とみつ子は思はずには居られなかつた。

お姉様が居なくなつたら、此方はどんなに淋しいか? 私はどんなにつまらないか? 夫等のことは姉様の方が余程よく承知してゐる筈なのに――等とみつ子は、夫から夫へと、とりとめもなく姉の幻を追つてゐるうちに、いつか涙が頬を伝ひ初めてゐたのに、自分は気が付かなかつた。

みつ子は気がくしや/\してしまつて、じれつたさうに窓際を離れた。さうしてソファの中にぐつたりと身を落した。幾らでも泣けさうな気がする。無暗に口惜しくてたまらなかつた。

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