心配な写真
本文約2,800字 ・ 読了時間 約6分
あらすじ(AIが作成しました)
海辺で休息中の語り手は、自分を揶揄し翻弄する二人の従妹に終始手を焼いている。生意気な彼女らは、口喧嘩や駆けっこで語り手を挑発し続け、やがて語り手が不機嫌に歩かされている隙をついて、小さなカメラで彼の気難しい表情を不意に撮影する。技術に定評がある従妹に顔を撮られた語り手は、写真の仕上がりに不安と憤慨を抱きながら、彼女らの悪戯に振り回される様子を綴る。
💰 この本を応援する(投げ銭)
「兄さんはそれで病気なの? 何だか可笑しいわ。まるで病気ぢやないやうだわね。」
「さうね、そんなのなら私達もちよつとでいゝからなつて見たいわね。」
二人の少女は、云ひ合せたやうにホヽヽヽと笑つて私を見あげました。二人とも私の従妹です。名前ですか――名前は遠慮しませう。何故なら私は、正直にこの二人の少女を描写しようと思ひますから。正直に書けば必ず怒られるに相違ありません。怒られたつて怖くもないけれど、泣かれると困りますからね。
「何だ失敬な! 他人の病気のことなんて、解りもしない癖に。」と私は云ひました。
「ホヽヽヽヽ。」とまた二人は笑ひました。返答をしないで笑ふとは更に失敬だ。一体僕はこのホヽヽといふ笑方からして大嫌だ。何がそんなに可笑しいんだらう。さう思つた私は、これぢやとても相手にならないと気付きましたので、砂を払つて立上がり、青々と美しい空を見あげて大きな声で歌をうたひました。
「それ一体、何の歌?」
「いやなドラ声だわね。」
どうも煩さい少女共である。……私も口惜しいから、
「他人の歌をけなす位なら、君達は定めし美しい声だらうね。」と云ふと、
「そりや、兄さんよりはね。」
「そんならやつて見ろ。」
「えゝ、やるわ。」と云つたかと思ふと、二人は何やらコソ/\囁き合ひました。
「あたしはソプラノよ。」
そんなことを云つたかと思ふと、二人は砂に腰かけたまゝ静かに歌ひはじめました。――成程こりや僕よりうまい――と私は直ぐに感服して了ひましたが、いくらか口惜しくもあるので、平気な顔をしてゐました。何の歌だか私にはさつぱり解りません。
「この歌、兄さん御存知でせう。」と、三節まで歌ひ終つた時、Aは私に訊ねました。
「讚美歌だらう。」と私は答へました。すると二人はハツハツハツと大きな声で笑ひました。私は「しまツた!」と、思はずには居られませんでした。
「あら、これを御存知ないの? 非芸術的ね。」
「エヘン」と私は咳払をするより他はありません。唱歌の話なんか止めて、何か別のことを話さう、と私は考へました。
「ところでお前達はいつ東京へ帰るんだ。学校はいつまで休みなんだ?」
「来月の十日までよ。」