TRENDIA CLASSIC
比較神話学
高木敏雄
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序
欧羅巴に於ける神話学の研究は、嘗て所謂比較神話学派の勃興せし当時に於て、甚しく隆盛を極めし反動の勢未だ止まずして、現今に於ては、寔に微々として、甚振わざるの観なきに非ず。然れども、これ表面の観察のみ。趣味多面の欧羅巴学界は、決してこの興味ある学科の研究を等閑に附せしには非ず。自然科学万能主義の時代は既に去りて、人文科学の研鑚は、今や旭日東天に昇るの勢を以て、進歩しつつあり。人文科学の一分科としての神話学の研究は、今日に於ても尚、依然として行われつつあり。唯その外観に於て、往日に於けるが如く、人目を惹くことの著しからざるのみ。
翻て、明治の学界に於ける、斯学の研究の状態を見よ。明治の人文科学は、果してその凡ての方面に於て、完全に発達しつつありや。著者は、之に答えて、直ちに然りと答うる能わざるを憾む。人文科学の範囲は、極めて広大なり。その分科として数え得可きもの、亦た実に少からず。然れども、明治の学界は、その各の学科に関して、少くとも若干の専門的著述を有し、各の分科はまた、其研究に従事する専門の学者を有す。独りわが神話学に関しては、二十世紀の今日に及ぶも、未だ之に関する唯一個の著述だも出でず、専らその研究に従事する、一人の学者も之なきは、決して明治学界の名誉たる所以に非らざるべし。