TRENDIA CLASSIC
或る別れ
北尾亀男
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父
娘 人妻
隣家の人々 主人、男の子、主人の老母
葬儀人夫甲乙
山の手の或る公園
大正大地震の翌春――花時には稀な晴れた日の午前。正面と下手にバラック。その間は細い路次で、奥深いバラック長家の心。正面のは入口が路次に面していて、(見物には)明りとりの小さな窓のあるはめ板が見えるだけで、下手のよりもやや奥まっている。窓には障子がはめてあり、その下に家の端から端に一本の細引が渡してある。下手のバラックは正面の入口の雨戸が半開きになっていて、その一枚に「忌中」の札が貼ってある。上手に一本の大きな立派な桜の樹が、今を盛りに咲き乱れている。そしてこれ等の周囲には樹々の若々しい青葉が繁っている。
桜の樹の下に一脚のベンチ、そこに葬儀人夫二人が腰かけている。甲は新聞を読み、乙はぼんやりと地上を眺めている。正面のバラックの前で、娘(二十歳位)が洗濯をし終った心で、一枚一枚絞りながらバケツに入れている。やがてそれを提げ、片手に盥をもって上手へ去る。
やや間。下手から貧し気な風をした父(五十四五歳)が出て来て、ものを尋ねる心でバラックを一軒一軒覗きながら、正面の路次の中へ去る。上手から娘が洗濯物を入れたバケツ、盥などを提げて出て来て、窓の下の細引に通して干す。正面の路次から父が出て来る。ふと娘を見る。娘も父を見る。同時に、