南欧の俤
上海通いの急行船「郵船」の上海丸で神戸を立ったのが、七月二十二日の午前十一時。丁度来島海峡で日が暮れるので、暑さ知らずの涼風に吹かれながら、瀬戸内の最も島の多く美くしい部分を日の中に見られるから、夏の雲仙行としては郵船に越すものはない。長崎へ着いたのが翌朝の九時、阜頭へ着くと、迎えの自動車が待っており、すぐそれに乗込むと、一路島原半島を目指したのである。同行者は上野さんと大塚さん。
この前雲仙に上った時は、茂木から、船で小浜に渡っているので、今度はわざと陸行を選んだのである。千々岩灘に添う十五里の沿岸道路は、平坦な道の少い代り、風景の捨難いところが多く、退屈を覚えない。江の浦辺りから海が見え出し、海上にはいくつかの小島も見え、無数の漁船も見える。或時は松並木の間から、或時は断崖の上からそれを眺めて行く。その間湾を隔てて、いつも私達を見守っているのは、雲仙の懐かしい温容である。
愛野の地峡をぬけていよいよ半島に入ると、風景は更に一段の趣きを加える。道は雲仙の山脚が海に落ちこんでいる急峻な部分に通じているので、可なり険しい絶壁の上を、屡々通らなければならぬが、そのために風致は歩々展開して行く。
この沿岸道路の趣きが、ヨーロッパで最美の道路として知られているあのリビエラ沿岸、いわゆる碧色海岸のニースとモナコ間によく似ていると人はいう。私もこの前それに折紙をつけた一人である。軒蛇腹道とも別称されるほど、しかく絶壁の上につけられた海岸道路から、松の生えた小島などを、南欧特有の青い空の下、碧玉の海面に見出しながら、ドライブする趣きは、ここと少からぬ共通点を持つ。外人がこの沿岸道路を非常に喜ぶのもなる程とうなずかれる。この道路ではところどころコンクリートの柵を廻らし、危険に備えてある点も甚だよく彼に似ている。この沿線中、誰でも最初に深く印象づけられる景色は愛野の地峡をぬけて、断崖の上から千々岩灘の碧湾に直面した時の眺めである。