本文へ移動
TORENDIA

ユダヤ人のブナの木

本文約58,200字 ・ 読了時間 約117分

あらすじ(AIが作成しました)

一七三八年生まれのフリードリヒ・メルゲルは、ドイツの辺鄙な村で育つ。この村では慣習が優先され、住民たちは日常的に盗伐や喧嘩を繰り返していた。ある事件の証拠品である斧を巡り、疑いをかけられたフリードリヒと周囲の緊張した関係を描く。やがて彼は過酷な運命に翻弄され、故郷を離れることになる。本作は、山深いヴェストファーレンの厳しい自然と、そこに生きる人々の剛情で排他的な風俗を、重厚かつ彫りの深い筆致でつづる。

アネッテ・フォン・ドロステ=ヒュルスホフ Annette von Droste=Hulshoff

🎧 まだ音声版はありません

リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 75

*2愚かな心の縺れを、誤りなく解きほぐす

そんな纎細な手がどこにあろうか。

哀れにもやつれはてた人に、平氣で石を投げつける

そんな氣強い手がどこにあろうか。

*3虚榮の血の押さえがたいたぎりを、誰が裁くであろうか。

忘られぬままに若い人の心に強い根を張らせ

ひそかに成心を植えつけて、その人の靈魂を蝕みつくす

そんなかりそめの言葉を、誰が裁くであろうか。

汝幸いなる者よ、明るい世界に生まれはぐくまれ

敬虔なる手に育てられた幸いなる者よ、

罪を計る秤をすてよ――そは汝には許されないのだ。

人を打つ石をすてよ――そは汝みずからの頭に當るであろう。――

[#改ページ]

一七三八年生まれのフリードリヒ・メルゲルはB村のいわゆる半小作農、いいかえればけちな土地持ちの一人息子であった。この村は、どの家もこの家も、みんなぞんざいな建てかたで煤けてはいたが、ある重要な、歴史的に有名な山脈の緑深き山峽にあったので、その繪畫的なすばらしい美しさによってあらゆる旅人の目をひきつけていた。その上この村の所屬している地方は、當時はまだ、工場や商家もなく、おまけに軍用道路一つとおっていないという、ひどく邊鄙な片田舍の一つなので、見なれない他國者がちょっと姿を現わしただけで、たちまち人目の垣をつくり、相當な身分の人でも、ほんの三十マイル旅行しただけで、いつのまにかもうこの地方のオディッセーになってしまうという風であった。――簡單にいえば、ドイツにはほかにもまだ、こんな所が澤山あったように、そういった情態においてのみはぐくまれる、あらゆる缺陷や、美徳や、あらゆる獨特さや、偏狹さを持っているという、そういった場所の一つであった。

同じジャンルの朗読つきの本