TRENDIA CLASSIC

私は隠居ではない

吉田茂

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いやどうも、ごらんの通り元気でね、この分では当分死にそうもありませんよ、困ったもんです。呵々。丈夫だ丈夫だと云われるんですがね。いくら丈夫でも、焼跡の煉瓦塀みたいに、ただ丈夫だというだけじゃあ仕様がないんでね。何んかの役に立つんでなくちゃあ……。まあ、生きている限りは、お国のお役に立ちたいと思ってるんですがね。

文藝春秋は毎号拝見していますよ。といっても実はあまり雑誌や本を読まないんでね。表紙だけは毎号確かに見ていますがね。これが現代の画の代表かと思って見ていますよ。画はあんまり判りませんがね。

大体、文藝春秋は厚くって重過ぎるんでね。読もうと思っても、手がくたびれちまう。イギリスの紳士の資格というのを聞いたことがあるが、ライディング(馬に乗ること)にシューティング(銃猟)にドリンキング(酒を飲むこと)でしたかね。リーディング(本を読むこと)なんて含まれていませんよ。

大分以前のことだが、皇太子殿下にお眼にかかることがありましてね、その時、今の話を申し上げて、読書なんてことは、あまりなさらないでも宜しい、と申し上げたら、お付きの宮内官が渋い顔をしていましたがね。呵々。

あなた方は、毎月毎月、来月は誰に頼もうかってことをやってるわけですか。それが、商売とはいえ、御苦労なこったな。私があなた方のような立場になったとしたら、とても本は出来ませんね。ナニ? 誰々、あれはつまらん奴だ。では誰々、あんなバカに何が書ける。誰々? あれあ、書かなくったって云うことは判ってる、って具合で、頼む相手が無くなっちまうと思うんだが、そうはなりませんかね。よく毎月頼む人があるもんですね。

元の首相と会って話をしないかというんですか? そんな暇はありませんよ、首相なんて大体バカな奴がやるもんですよ。首相に就任するや否や、新聞雑誌なんかの悪口が始まって、何かといえば、悪口ばかりですからね、この世にこんな大バカはないように書かれますよ。あなたんところだってそうでしょう。そんなバカばかり集まって話をしたって面白かろうはずがないじゃありませんか。

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