TRENDIA CLASSIC
横光さんと梶井
君
淀野隆三
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かれこれ二十年前のことである。私たち「青空」の仲間――梶井基次郎や中谷孝雄、三好達治や外村繁等の間で、横光さんに傾倒してゐたのは、北川冬彦ただ一人であつて、彼は横光さんのものを私たちに勧める役を引き受けてゐた。かなり頑固な文学青年であつた私たちには、例へば梶井君には志賀さん、中谷君には佐藤さん、三好君には萩原さん、外村君には瀧井さんといつた工合に、それぞれ私淑する詩人や作家があつて、北川君の勧めにも拘らず、なかなかおいそれとは傾倒するに至らなかつた。そんな中でも北川君は屈することなく、横光さん支持を止めなかつたばかりか、段々に私たちに横光さんを近づけるやうになつた。
極めてぼつぼつと、横光さんのことが話題に上るやうになつたが、それでも感心しない作品や批評、感想の類があると、私たちは口を揃へて北川君に喰つて掛り、彼の責任を追求するといつた有様で、北川君はそんな時には必らず、一度横光さんに会つてくれれやいいんだが、といふやうなことを洩した。しかし誰も進んで会はうとはしなかつた。もちろん作品は殆ど皆なが読んでゐた、最も情熱的な、厳格な態度で。