TRENDIA CLASSIC

井戸

W・W・ジェイコブズ

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古い田舎の邸の撞球室で、二人の男が立ち話をしていた。気合の入らなかった玉突きは終って、二人はひらかれた窓ぎわに腰をおろし、窓の下からひろがっている庭園を眺めながら、けだるそうに話しあった。

「君ももう、いよいよだな、ジェム」とうとう、一人が言った。「今度は六週間あくびしながら蜜月をすごして、客を招いた男を――いや、女をというつもりだったが――さぞかし呪うだろうな」

ジェム・ベンスンは椅子に腰かけたまま長い手足をのばして、なにやらぶつぶつ異議をとなえた。

「てんで理解できないね」ウィルフレッド・カーは、あくびしてつづけた。「僕の性には合わないな。僕なんざ、一人でいたって二人でいたって、生活に必要なお金をついぞ持ったことがない。もし君かクリーサス(大冨豪の代名詞)くらい金持だったら、見方も違っていたかもしれないが」

その言葉の終りの方には、彼のいとこが返事をさし控えるような或る意味があった。いとこは窓の外をみつめたままで、ゆっくり葉巻をふかしつづけた。

「クリーサスみたいに――また、君みたいに金持ではないけれども」ミスタ・カーは目をほそめて窺うように見ながら、また話しだした。「僕は僕なりに、自分のカヌーに乗って“時”の流れを漕ぎくだりながら、友だちの家の側柱にカヌーをつないでは、中へはいって食事の御相伴にあずかって暮しているよ」

「まったくヴェネチヤふうだね」まだ窓の外を眺めながら、ジェム・ベンスンは言った。「君には、まんざらでもないことだろうな、ウィルフレッド。カヌーをつなぐ側柱があり、食事があり――そして、友だちがあるというのは」

今度はミスタ・カーが、ぶつぶつ言った。「しかし真面目に言ってだよ、ジェム」彼は、ゆっくり言った。「君は幸せなやつだよ、とても幸せなやつだ。オリーヴよりもいい娘がこの世にいるのなら、一遍お目にかかってみたいもんだ」

「うん」もう一人の方は、静かに言った。

「彼女はたぐい稀な娘だよ」カーは窓の外をみつめながら、つづけた。「あれほど善良で、優しい娘はいないね。彼女は君を、ありとあらゆる美徳をかねそなえた男だと思ってるよ」