TRENDIA CLASSIC

黒岩山を探る

沼井鐵太郎

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これは岩代國南會津郡の檜枝岐村から實川の溪谷を遡り、岩野上三國の國境なる黒岩山(二一六三米)を越えて、鬼怒川上流の一支流ヨイチ澤(コダ池澤)を下つた時の旅日記である。

一、日光より檜枝岐へ

黒岩山は鬼怒川峽谷の川俣温泉を根據地として黒澤を遡れば達せられるだらうといふ事は、當然誰にも豫想されるし、又時間の上から云つても最も便利な順路に違ひないが、實川の谷から取付くといふ事が數年來の私の希望であつた。其れには檜枝岐村を發足地とするの他はないが、其の奧深き里までは日光―川俣温泉―引馬峠―と結び付けるのが捷徑である。

大正九年の十月二十八日午後十一時といふに、上野から北行の列車に乘り込む。豪く混むので一睡も出來ず、此頃は常も連になる岩永良三君、名越徹君と退屈をカードにまぎらす。宇都宮で下車、曉の六時迄四時間といふものは時ならぬ無料宿泊である。