TRENDIA CLASSIC
四人
芥川多加志
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突然、すこしおそろしい音がした。それから、どたんばたんといろ/\の物音が矢つぎ早にしたかと思ふと、しいんとなつた。
はじめにした声は、俊一がその弟を叱りつけたのである。何か気に障つたことがあつたのだらう。弟と向ひ合つてゐて、俊一は突然怒鳴つた。そして、ちよつと仁王様に似たやうな顔付になつたが、その自分の怒つた顔に自信がないために、どこか抜けたところがありはしないかといふ怖れに駆られた、といつた様子でつと立上り、ばり/\と襖を押し開けて奥の間の自分の室へ行かうとした。何か重大な国際会議の席上から脱退する悲壮な日本代表のやうな調子であつた。ばりつと風を巻いて室から出ようとする時、壁に吊してあつた瓢箪が落ちた。勿論、俊一は、あつといふ間にその瓢箪を片足あげてふんづけた。気が立つてゐる時は、かういふ品物を一気に粉みぢんにするのは気持のいいものだ。が、あれほど俊一が力を籠めたにも拘らず、瓢箪は潰れなかつた。のみならずつるりと外れて俊一の足をすくつたから、彼はよろよろとして、危くひつくりかへるところであつた。怒り心頭に発した彼は、勿論電光石火の敏速さを以て瓢箪を潰さんともう一度試みるべきであつたし、又試みようとしたのだが、具合の悪いことに瓢箪は彼の足からすこし離れたところに在つた。それで、不覚にも彼は躊躇してしまつたのである。ちよつとの間、彼は足を出したものかやめたものかとぴく/\させてゐた。彼は、はたから見てゐて、それがどのくらゐ哀れな可笑しさを唆るものであるかといふことに忽ち気がついた。その上、尚悪いことには、すこしも騒がず坐つたまゝであつた弟の方をちらりと見てしまつたのである。弟は、意地悪さうな目付をしてにやりと笑ひかけてゐた。