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TORENDIA

片男波

本文約2,800字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

端午の祝酒で賑わう漁師の苫屋を密かに抜け出した若者の仙太と人妻のお照は、海岸で仙太の切実な恋心を打ち明けられる。夫の源様がいる身でその思いを受け入れられないと拒むお照に対し、仙太は死を口にしてまで自身の感情をぶつける。その時、突如として大津波が襲来し、二人は濁流の中、一枚の戸板にしがみつく。さらに別の男が戸板にすがりついたことで、仙太は水中に沈み、彼の手を放したお照も共に波間へと消えていく。翌日、小島に漂着したのは夫の源造であった。

小栗風葉

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🎧 片男波 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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降続きたる卯の花くだしようようはれて、かき曇りたる天もところどころ雲の切間を、朧なる五日の月は西へ西へと急ぐなり。千載茲許に寄せては返す女浪男浪は、例の如く渚を這上る浪頭の彼方に、唯形ばかりなる一軒立の苫屋あり。暮方より同じ漁師仲間の誰彼寄り集いて、端午の祝酒に酔うて唄う者、踊る者、跂る者、根太も踏抜かんばかりなる騒ぎに紛れて、密[#ルビの「そつ」はママ]と汀に抜出でたる若き男女あり。

「何か用なの? え、仙太様。」

と女は美かなる声の優しくまず問懸けたり。されど仙太は応答もなさで、首をたれたるまま、時々思い出したらんように苫屋の方を振返りつつ、的もなく真砂の間をざくざくと踏行きぬ。

「このまあ真黯なのにどこへ行こうての? え、仙太様、仙太様。」

重ねて女は声懸けけるが、応答はおろか、見も返らざるに思絶ちけん、そのまま口を噤みて、男の後ろに従いぬ。

月はいよいよ西に傾きて、遥かの沖の方には、綿の如く、襤褸の如き怪しげなる雲のしきりに動くを見たり。

二人は岬を廻りて、苫屋の火影も今は見えずなりける時、つと立停まりて、

「お照様。」

と始めて口を開きたる仙太の声は、怪しとも戦きたり。

「お前は何も知るまいが、俺は毎日ここへ来て立っているぜ。真の事だ、毎日来て立っている!」

「何故さ。」

とお照は訝しげに問返しぬ。

「何故って、ここはお前……お前が何時か腓を返して沈懸った時に、俺がその柔かい真白な体を引抱いて助揚げたとこだ。その時お前が一生この恩は忘れないって、片息になって、しっかり俺の頸へしがみついたあの時から、俺は、俺はお前を……。」

と言さして、しばし辞は途切れしが、

「真によ、女てえものはどこまで気強いか知れねえものだ!」

と仙太は投出すように言いはなてり。聞くとひとしくお照は思わず後退りて、朧なる月影にじっと男の顔を透見つつ。

「仙太様!」

とばかりひたと寄添いしが、にわかに心着きて、我が家の方を振返りつ、

「だって、私は源様という歴とした亭主があるんだもの、よしんばどうしようたってしょうがないじゃないか。」

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