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TORENDIA

家

本文約140,600字 ・ 読了時間 約282分

あらすじ(AIが作成しました)

橋本の正太は叔父の三吉を訪ねる。二人は新開地の風景の中で、自分たちを古い家から出た芽になぞらえ、変わりゆく時代と家族の在り方について語り合う。その後、正太は病に倒れ、東京で家を構えることに苦心していた叔父たちに未来を託してこの世を去る。本書は、家という伝統的な枠組みの中で、近代という新しい時代を生きようとあがき、翻弄される人々の苦悩と、家族という絆の形を鋭く描く。

島崎藤村

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一

橋本の正太は、叔父を訪ねようとして、両側に樹木の多い郊外の道路へ出た。

叔父の家は広い植木屋の地内で、金目垣一つ隔てて、直にその道路へ接したような位置にある。垣根の側には、細い乾いた溝がある。人通りの少い、真空のように静かな初夏の昼過で、荷車の音もしなかった。垣根に近い窓のところからは、叔母のお雪が顔を出して、格子に取縋りながら屋外の方を眺めていた。

正太は窓の下に立った。丁度その家の前に、五歳ばかりに成る児が余念もなく遊んでいた。

「叔母さん、菊ちゃんのお友達?」

心易い調子で、正太はそこに立ったままお雪に尋ねてみた。子供は、知らない大人に見られることを羞じるという風であったが、馳出そうともしなかった。

短い着物に細帯を巻付けたこの娘の様子は、同じ年頃のお菊のことを思出させた。

お雪が夫と一緒に、三人の娘を引連れ、遠く山の上から都会の方へ移った時は、新しい家の楽みを想像して来たものであった。引越の混雑の後で、三番目のお繁――まだ誕生を済ましたばかりのが亡くなった。丁度それから一年過ぎた。復た二番目のお菊が亡くなった。あのお菊が小さな下駄を穿いて、好きな唱歌を歌って歩くような姿は、最早家の周囲に見られなかった。

姉のお房とは違い、お菊の方は遊友達も少なかった。「菊ちゃん、お遊びなさいな」と言って、よく誘いに来たのはこの近所の娘である。

道路には日があたっていた。新緑の反射は人の頭脳の内部までも入って来た。明るい光と、悲哀とで、お雪はすこし逆上るような眼付をした。

「まあ、正太さん、お上んなすって下さい」

こう叔母に言われて、正太は垣根越しに家の内を覗いて見た。

「叔父さんは?」

「一寸歩いて来るなんて、大屋さんの裏の方へ出て行きました」

「じゃ、私も、お裏の方から廻って参りましょう」

正太はその足で、植木屋の庭の方へ叔父を見つけに行くことにした。

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