TRENDIA CLASSIC

再婚について

島崎藤村

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神坂も今は秋の収穫でいそがしくもまた楽しい時と思います。

ことしの秋は、柳ちゃんを連れて神坂の土を踏みたいとは、かねてから楽しみにしていたことでしたが、いろいろの都合で十一月の初めごろに出かけることはちょっとむつかしくなりました。

さて、きょうは珍しい報告を送る思いでこのおたよりいたします。ことしの夏の初めあたりから、とうさんは自分の生活を変えようと思い立ったからです。

今までのとうさんの生活が変則で、多少不自然であることは自分でも知っていましたが、おまえたち兄妹を養育するためには、これもやむをえないことでした。長い年月の間のとうさんの苦心は、おまえも思い見てくれることでしょう。だんだんおまえたちも大きくなり、順にひとりずつ独立するようになってみれば、とうさんがまったくのひとりになる日の来ることも目に見えています。それではとうさんも何かにつけて不自由であり、第一病気でもしたときに心細くもありますから、今のうちに自分の生活を変え、晩年になって不自由しないように今からそのしたくをしたいと思います。

幸い加藤静子さんはおまえもよく知っているとおり、わが家へ長く通って来て気心もよくわかっていますから、川越のにいさんにとうさんから直接に交渉して、加藤さんをもらい受けることに話をまとめました。

このことはまだ親戚にも友人にもだれにも話してありません。おまえたちだけには話して置きたいと思いながら、さてそれが今日まで言い出せなかったわけです。過去十幾年の間、とうさんひとりをたよりにしてきたようなおまえたちのことを思うと、どうしてもこの手紙が書けなかったのです。

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