猟人
本文約2,400字 ・ 読了時間 約5分
あらすじ(AIが作成しました)
信越線の列車で遭遇した無口な猟人や、戸隠の山村で密猟者を追う巡査の姿を軸に、山あいの生活と猟師の性格を綴る。著者である私は、汽車で見かけた赤ら顔の猟師の振る舞いを回想しつつ、解禁日を前に山に潜入する密猟者とそれを探す警察の動向を耳にする。山村の静かな日常の中で、猟人という存在が持つ特有の陰影や、ふとした時に交錯する人々の断片的なやりとりを繊細な筆致で描き出していく。
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鉄砲打ちと云ふものには、よく、秋の汽車の中で出会つた。赤ら顔で、大柄な、さうして大抵、沈黙勝ちな人が多い。
三等寝台のあつた頃だ。
初冬の寒い夜更け、信越線の或る駅から、上り列車に乗り込むと、私の座席に、鳥打帽を被つた二人の男が坐つてゐた。
一目見てすぐ猟人だとわかつたが、夥しい獲物を携へてゐた。さうして、その獲物の鳥の、足や羽根には、ところどころ雪粉がついてゐた。
二人は向ひ合つてゐるが、別に、話をしてゐるのでもない、只どちらかの顔に、時々満足らしい微笑が浮ぶ。
「どうれ、寝るとしようか」
やゝたつて、一人が云つた。相手は、軽くうなづいた。
多分、今日一日中、吹雪の中を信越の国境ひで獲物を追つてゐたのだらう、私はさう判断した。
何気なく、「見事な鳥ですね、それはなんですか」と私は話しかけた。すると、二人はたいへん不機嫌な顔になつた、さうして、一人の男が、「山鳥ですよ」と吐き出すやうに答へた。それはまるで怒つたやうな声であつた。それでゐて、別に人に悪い感じを与へるといふのでもなかつた。
私は下のベツドにやすんだ。男達は、もう一本紙巻煙草を根もとまで、美味さうに吸つてから、獲物を大切さうに提げて寝台の小さな梯子を登つて行つた。
目をつむつてからも、私は何故か、上に寝てゐる猟人と、その獲物のことが気になつた。あの氷漬けになつたやうな鳥達が、私の夢の中まで忍び込んで来るやうに思はれた。
戸隠ゆきの汽車の中で、うとうとしてゐると、私は肩をたゝかれた。渋ぶさうに目をあけると、私を呼び起した男は目の前に立つてゐた。赤ら顔の髭のある人であつた。背も随分高かつた。「すみませんね」と低いが、よく通る声で云つた。