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TORENDIA

果物の木の在所

本文約3,400字 ・ 読了時間 約7分

あらすじ(AIが作成しました)

信州善光寺平は、梅や桃、桜、杏といった果物の木が数多く植わる土地である。本書は、四季を通じて美しい花を咲かせ実を結ぶ果樹と、この地で語り継がれる伝説や人々の暮らしを綴る随筆である。杏の木にまつわる伝承や、林檎畑の情景、栗の香りが漂う蜂蜜にまつわる逸話などを通じて、自然の恵みと共に生きる人々の素朴な喜びや、風景が醸し出す穏やかな幸福感、そして土地に根付く豊かな文化を詩情豊かに描き出している。

津村信夫

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🎧 果物の木の在所 / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら

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信州の子供達や大人が首をながくして待つてゐた春は、永い間待つただけの甲斐があつて、これは又なんと美しい時でせう。

信州では、梅、桃、桜、杏、李といふやうな、春の花がいつときに咲き出すと言はれてゐます。勿論いつときとは言つても、多少の早いおそいはありませうが、まるで匂ひこぼれるやうな美しい花が、町の庭にも、野や山にも、相ついで、次々と咲き出すのです。

梅の花と言へば、暖かいところでは、二月の半ばにはもう咲くものです。それがどうでせう。この山国では、四月になつて、やつと咲くのです。その梅の花がそろ/\散るころになると、もうあの田舎びた杏の花のさかりです。桜の花は四月の末から、五月の初にかけて、その花をひらきます。

信州でも、この善光寺平はとりわけ果物の多いところです。

果物の木と言へば、どんなものがあるでせう。桃、梨、林檎、柿、杏、李、それに桜桃などもその一つです、さうして色々の種類のこんな果物の木が、この善光寺平には一つ残らず植わつてゐるのです。これらの、おいしい果物の実る木は、又みんな美しい花の咲く木なのです。考へてみると、面白いものですねえ。

杏の木は、そのいかにも田舎らしい花の色から言つても、一番この地方と似合つてゐるやうに思はれます。さうして、又実際に、この杏の木は昔から善光寺平にたくさんあつたのです。善光寺平には松代といふ町があります。昔、ここのお殿様は真田といふ方でした。ところが、この松代の殿様はたいへん賢い人で、この方が自分の領地に杏の木を植ゑるのを奨励なさつたのです。そのわけは、この杏の美しい花を眺めるといふだけではなかつたのです。この木から漢薬の杏仁といふものをとるためだつたのです。善光寺平に来て、この杏の話がでると、土地の老人達はきまつてかう言つて答へます。

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