ジャン・クリストフ
本文約92,200字 ・ 読了時間 約185分
あらすじ(AIが作成しました)
フランス中部の小都市で、数世紀にわたり定住してきたジャンナン家の人々の生活と気質を描く。オーギュスタンは銀行家として一族の地盤を築き、その息子の銀行家アントアーヌは文学的抱負を抱きつつ地方の小都市で暮らした。アントアーヌの娘アントアネットは厳しい労働環境の中で信仰と音楽に心の支えを見出していた。彼女の死後、弟のオリヴィエは姉の遺品からかつての想い人であるクリストフへの秘めた恋心を知り、二人の出会いが結びついていく。
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母に捧ぐ
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ジャンナン家は、数世紀来田舎の一地方に定住して、少しも外来の混血を受けないでいる、フランスの古い家族の一つだった。そういう家族は、社会に種々の変化が襲来したにもかかわらず、フランスには思いのほかたくさんある。彼らは自分でも知らない多くの深い関係で、その土地に結びつけられているのであって、一大変動がない以上は、そこから彼らを引き抜くことはできない。彼らのそういう執着には、なんらの理由もないし、また利害関係もほとんどない。歴史的追憶などという博識な感傷性といったものは、ある種の文学者らにしか働きかけるものではない。打ち克ちがたい抱擁力で人を一地方に結びつけるものは、もっとも粗野な者にももっとも聡明な者にも共通なる、漠然としたしかも強い感覚――数世紀以来その土地の一塊であり、その生命に生き、その息吹きを呼吸し、同じ床に相並んで寝た二人の者のように、その心臓の音がじかに自分の心臓へ響くのを聞き、そのかすかなおののき、時間や季節や晴れ日や曇り日の無数の気味合、事物の声や沈黙、などを一々感じ取ってるという、漠然としたしかも強い感覚なのである。おそらくは、もっとも美しい地方よりも、または生活のもっとも楽しい地方よりも、土地がもっとも簡素で、もっとも見すぼらしく、人間に近く、親しい馴れ馴れしい言葉を話しかけるような、そういう地方こそ、よりよく人の心をとらえるものである。