本文へ移動
TORENDIA

貉

本文約1,500字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

赤坂の紀国坂で夜道を急ぐ商人は、濠の縁で泣き崩れる若い女に出会う。親切心から声をかけ励ます商人に対し、女はゆっくりと振り返り、目も鼻も口もないのっぺらぼうの顔を見せる。恐怖のあまり逃げ出した商人は、ようやく見つけた蕎麦屋の屋台に駆け込むが、その蕎麦屋もまた、自分の顔を撫でて同様の卵のような姿へと変貌を遂げる。本作は、江戸の街を徘徊し、人びとを恐れさせる貉の怪異譚を描く。

小泉八雲 Lafcadio Hearn

速度
🎧 貉 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 3

東京の、赤坂への道に紀国坂という坂道がある――これは紀伊の国の坂という意である。何故それが紀伊の国の坂と呼ばれているのか、それは私の知らない事である。この坂の一方の側には昔からの深い極わめて広い濠があって、それに添って高い緑の堤が高く立ち、その上が庭地になっている、――道の他の側には皇居の長い宏大な塀が長くつづいている。街灯、人力車の時代以前にあっては、その辺は夜暗くなると非常に寂しかった。ためにおそく通る徒歩者は、日没後に、ひとりでこの紀国坂を登るよりは、むしろ幾哩もり道をしたものである。

これは皆、その辺をよく歩いた貉のためである。

貉を見た最後の人は、約三十年前に死んだ京橋方面の年とった商人であった。当人の語った話というのはこうである、――

小泉八雲 Lafcadio Hearnの他の作品

同じジャンルの朗読つきの本