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TORENDIA

耳無芳一の話

本文約7,900字 ・ 読了時間 約16分

あらすじ(AIが作成しました)

壇ノ浦で滅亡した平家の怨霊が住まう赤間ヶ関の阿彌陀寺に、琵琶の名手である盲目の芳一が暮らしていた。ある夏の夜、芳一は何者かに誘われ、身分の高い殿様の前で平家物語を吟誦する。住職は芳一の身を案じ、全身に経文を書き写して守ろうとするが、耳に書き漏らしたために恐ろしい災難が降りかかる。不思議な体験を経て名声を得た芳一のその後と、耳無芳一と称されるようになった経緯を綴る怪異譚である。

小泉八雲 Lafcadio Hearn

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七百年以上も昔の事、下ノ関海峡の壇ノ浦で、平家すなわち平族と、源氏すなわち源族との間の、永い争いの最後の戦闘が戦われた。この壇ノ浦で平家は、その一族の婦人子供ならびにその幼帝――今日安徳天皇として記憶されている――と共に、まったく滅亡した。そうしてその海と浜辺とは七百年間その怨霊に祟られていた……他の個処で私はそこに居る平家蟹という不思議な蟹の事を読者諸君に語った事があるが、それはその背中が人間の顔になっており、平家の武者の魂であると云われているのである。しかしその海岸一帯には、たくさん不思議な事が見聞きされる。闇夜には幾千となき幽霊火が、水うち際にふわふわさすらうか、もしくは波の上にちらちら飛ぶ――すなわち漁夫の呼んで鬼火すなわち魔の火と称する青白い光りである。そして風の立つ時には大きな叫び声が、戦の叫喚のように、海から聞えて来る。

平家の人達は以前は今よりも遥かに焦慮いていた。夜、漕ぎ行く船のほとりに立ち顕れ、それを沈めようとし、また水泳する人をたえず待ち受けていては、それを引きずり込もうとするのである。これ等の死者を慰めるために建立されたのが、すなわち赤間ヶ関の仏教の御寺なる阿彌陀寺であったが、その墓地もまた、それに接して海岸に設けられた。そしてその墓地の内には入水された皇帝と、その歴歴の臣下との名を刻みつけた幾箇かの石碑が立てられ、かつそれ等の人々の霊のために、仏教の法会がそこで整然と行われていたのである。この寺が建立され、その墓が出来てから以後、平家の人達は以前よりも禍いをする事が少くなった。しかしそれでもなお引き続いておりおり、怪しい事をするのではあった――彼等が完き平和を得ていなかった事の証拠として。

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