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TORENDIA

サガレンと八月

本文約4,300字 ・ 読了時間 約9分

あらすじ(AIが作成しました)

オホーツク海のなぎさで風や波の声に耳を傾ける語り手と、母の忠告を無視して海で拾った不思議なものを通して異界へ連れ去られる少年タネリの物語を描く。語り手は風や波との交信に不思議な感覚を覚え、一方のタネリは拾い上げた寒天状の物体を覗き込んだことで恐ろしい犬神に捕まり、ちょうざめのもとで働く蟹の姿に変えられてしまう。自然と対峙する二つの視点から、幻想的な情景と少年を待ち受ける未知の運命を綴る。

宮沢賢治

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🎧 サガレンと八月 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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「何の用でここへ来たの、何かしらべに来たの、何かしらべに来たの。」

西の山地から吹いて来たまだ少しつめたい風が私の見すぼらしい黄いろの上着をぱたぱたかすめながら何べんも通って行きました。

「おれは内地の農林学校の助手だよ、だから標本を集めに来たんだい。」私はだんだん雲の消えて青ぞらの出て来る空を見ながら、威張ってそう云いましたらもうその風は海の青い暗い波の上に行っていていまの返事も聞かないようあとからあとから別の風が来て勝手に叫んで行きました。

「何の用でここへ来たの、何かしらべに来たの、しらべに来たの、何かしらべに来たの。」もう相手にならないと思いながら私はだまって海の方を見ていましたら風は親切にまた叫ぶのでした。

「何してるの、何を考えてるの、何か見ているの、何かしらべに来たの。」私はそこでとうとうまた言ってしまいました。

「そんなにどんどん行っちまわないでせっかくひとへ物を訊いたらしばらく返事を待っていたらいいじゃないか。」けれどもそれもまた風がみんな一語ずつ切れ切れに持って行ってしまいました。もうほんとうにだめなやつだ、はなしにもなんにもなったもんじゃない、と私がぷいっと歩き出そうとしたときでした。向うの海が孔雀石いろと暗い藍いろと縞になっているその堺のあたりでどうもすきとおった風どもが波のために少しゆれながらぐるっと集って私からとって行ったきれぎれの語を丁度ぼろぼろになった地図を組み合せる時のように息をこらしてじっと見つめながらいろいろにはぎ合せているのをちらっと私は見ました。

また私はそこから風どもが送ってよこした安心のような気持も感じて受け取りました。そしたら丁度あしもとの砂に小さな白い貝殻に円い小さな孔があいて落ちているのを見ました。つめたがいにやられたのだな朝からこんないい標本がとれるならひるすぎは十字狐だってとれるにちがいないと私は思いながらそれを拾って雑嚢に入れたのでした。そしたら俄かに波の音が強くなってそれは斯う云ったように聞こえました。「貝殻なんぞ何にするんだ。そんな小さな貝殻なんど何にするんだ、何にするんだ。」

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