くまと車掌
本文約8,400字 ・ 読了時間 約17分
あらすじ(AIが作成しました)
北海道の原野を走る列車の車掌が、貨車に積み込まれた鮭を目当てに忍び込んだくまと対峙する。制動室から貨車に入った車掌は、荒らされた鮭の山と遭遇し、逃げ場のない密室で猛獣と二人きりになる。列車は急勾配のカーブに差し掛かり、ブレーキ操作が不可欠な状況下で、車掌はろうそくの火や燃えるむしろを駆使してくまを威嚇し、命懸けの格闘を繰り広げる。過酷な状況の中でハンドルを操作した車掌は、やがて駅で発見され、列車に乗り込んでいたくまは生け捕りにされる。
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わたしは尋常科の四年を卒業するまで、北海道におりました。その頃は、尋常科は四年までしかありませんでしたから、わたしは北海道で尋常小学を卒業したわけです。
今から、ざっと二十年前になります。今では小学校の読本は、日本中どこへいっても同じのを使っておりますが、その当時は、北海道用という特別のがあって、わたしたちは、それを習ったものです。茶色の表紙に青いとじ糸を使い、中の紙も日本紙で片面だけに字をすったのを二つ折りにして重ねとじた、純日本式の読本でした。その中には、内地の人の知らない、北海道だけのお話がだいぶのっていたようです。(わたしたちは、本州のことを内地内地と、なつかしがって、よんでいました。)
たとえは、くまが納屋へしのびこんで、かずの子のほしたのをはらいっぱいに食べ、のどがかわいたので川の水をのむと、さあ大へんです。おなかの中で、かずの子が水をすってうんとふえたからたまりません。くまは、とうとう胃がはれつして死んでしまったというようなお話ものっていました。ほしかずの子がどんなに水へつけるとふえるものかは、おかあさま方におききになればよくわかります。
――わたしは、またもう一つ読本の中にあったくまの絵をありありと思いだすことができます。それは、大きなくまが後足で立って、木の枝にさけをたくさん通したのをかついでいくところです。さけが川へ上ってくるころになりますと、川はさけでいっぱいになり、さけはたがいに身動きもできないくらいになることがあるのだそうです。そういう時をねらって、くまは川の岸にでて、爪にひっかけては、さけをほしいだけ取ります。それから木の枝を折って、さけのあごへ通し、それをかついで穴へ帰ろうとするのですが、さすがのくまもそこまでは気がつかないとみえ、枝のさきをとめておかないものですから、さけは、道々、一つずり落ち二つ落ちして、ようやく穴へ帰ったころには、枝に一ぴきものこっていない。そうしたくまの歩いたあとへ通りかかった人こそしあわせで、くまの落したさけをひろい集めさえすれば大漁になるというお話でした。