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TORENDIA

恨なき殺人

本文約27,400字 ・ 読了時間 約55分

あらすじ(AIが作成しました)

山中の鉱山で働く池田は、東京の鉱主から届いた解雇を仄めかす不当な手紙に激しい怒りを覚える。周囲の陰湿な中傷や人間関係に嫌気が差しつつも、閉塞した現状から抜け出せない自分に苛立ちを募らせる。ある日、同僚の松田が事件を起こして自首を決意する。池田は松田を巡査に引き渡しながら、友達のために潔く牢獄へ向かう彼と、卑劣な安逸を貪る自分を対比させ、やるせない虚無感の中で酒に溺れていく。

宮嶋資夫

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一

七月初めの日が頭の上でカンカン照りはじめると、山の中は一しきり、ソヨリとした風もなくなっていた。マンゴク網を辷り落る鉱石の響きも、トロッコのきしる音も、すべてが物憂くだらけ切っていた。草木の葉はぐんなりと萎れて、ただ山中一杯にころがっている岩のかけらや硅石の破片が、燃えるような日の光りに焦がされてチカチカと、勢いよく輝いているばかりであった。

坑外で働いている者は、掘子も選鉱女も、歌一つ謳う元気もなくなっていた。時折坑内から起る爆発の轟きが思い出したようにだらけた空気の中に響き渡った。けれども、それも直ぐ、この烈しい光りと熱に気圧されて消えて了うと、四辺はまた妙にひっそりかんとして了った。

この時麓の方から、太い松丸太を馬の脊に積んで来た馬子が見張りの前に来て、

「留木を持って来たから調べておくんなんしょ」と言った。

肌脱ぎになって調べ物をしていた池田は、すぐに巻尺を持って外に出た。太い松丸太を担って、焼けるような日に照りつけられて山道を登って来た馬は、浴びるように汗をかいて、木蔭の草を食っていた。池田が尺を当て、杭木を調べて了うと、馬子は思い出したように、

「事務所からこれを頼まれて来やした」と、一通の手紙を渡した。

それは東京の鉱主から、池田に宛てたものであった。

鉱主から直接に来る手紙に碌なことのあった例しはないので、池田は妙な顔をして、ポケットに入れてしまった。杭木の領収書を受け取った馬子が、再び熱い日中を麓の方へ下って行ってから、彼は一人で廃坑の前に登って行った。其処には涼しい蔭と、坑内から吹いて来る冷たい風が絶えずあった。彼は其処に寝転ぶと、ポケットから手紙を出して、封を切って読み始めた。中には、

――君はこの二三日前に病気と称して現場を休んで、村の茶屋で遊んでいたそうだが、何の理由にせよ、そう言う行動は甚だ怪しからん事に思う。直ぐにも解雇すべきところだが、縁類にもなっていることだから、一応君の母親を呼んで注意だけして置いた。今後は断じて謹慎するか、然らざれば此の際辞職する方が、君の名を傷けないことになるであろう――と、こんな事が書いてあった。

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