ニュー・ヨーク 『青春の自画像』より
本文約6,100字 ・ 読了時間 約13分
あらすじ(AIが作成しました)
アメリカのニューヨークに到着した前田河広一郎は、知人の紹介で木元という男と出会う。奇妙な言動を繰り返す木元に振り回されながらも、前田河は異国の地で自身の文筆活動による野心を抱き続ける。やがて知人の紹介状を頼りに雑誌社を訪ねた前田河は、原稿の執筆を依頼され報酬を手にする。再会した木元との奇妙な交流を通じ、ニュー・ヨークという予想外の都会で新たな生活の足がかりを築こうとする様子を描く。
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考えると、ずいぶん馬鹿げた服装をしていたものだ。頭には、山高帽という奴をかぶっていたし、口にはチョビ髯、手に贋革の鞄、厚ぼったい灰色の外套を着こんで、片手に例のステッキ。そのころは、まだ流行にならなかった活動のチャップリンにどうやら似通よった姿であった。このほとんどは、シカゴ製のもので、日本から身につけて来たものと云っては何一つない。いわば七ヶ年で、完全に日本から脱皮した自分であった。
外形はそうであったが、内容の方はどうかとなると、これはいささか覚束ない、和製アメリカの混合体である。私の見た日本、私の感じた日本、これを私の英語で書く、という以外には、私の差しあたっての野心はなかった。そのためには、タイプライタアもどうやら片方の手である程度たたけるようになったし、同じ語彙を字引でみつけるにも、シノニュウムと、アントニュウムを気をつけるほどになったし、ものの考え方も英語でするようになったのであるが、自分でほんとに考えてみると、はたしてこれだけで、身内に潜む希望を除けば、何が出来ようと、押えても押えても疑いが湧いて来る。
『赤手空拳ただ一片の希望あるのみだ。』
こう云って、ニュー・ヨークの鋪道に立った私だった。前からの打合せで、グランド・セントラルには、辰野が迎えてくれる筈であったが、都合で木元という男がその代理にやって来た。
『やア、辰野はどうしたかね?』
『その辰野は、どうしてもぬけられぬパーテーがあるとかで、僕に代理をしてくれと云うのでね。』
平和楼で、一度会っただけの木元であったが、先方は狎れ狎れしくあいさつして、さっさと人混みを分けて、どこかへ歩いて行く。
『どこへ行くんだね?』
『うむ、いったん僕の宿へ行ってめしにしようと思うのだが――待てよ、先に三沢に会うかな、その方がよかろう。これから五十七丁目だ、三沢っていってね、君にぜひ一度紹介して置きたい人間がいるんだ、ちょっと会ってくれたまえ。』